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水上は高校生らしからぬ深いため息を吐いた。
「素敵な恋をしてみたいんだ」
「恋はいつの時代も素晴らしいものです。好きな人はいらっしゃるのですか?」
「実は気になっている女性がいます。現代文を担当する教師なんだけどね」
「教師に恋心を抱いたわけですね。なるほど」
「今日初めて会う人だから言ってしまったけど、言葉に出すと恥ずかしいな」
水上は髪をくちゃくちゃにして顔を赤くしていたが、瞳は真っ直ぐで真剣だった。
机を手の平でポンポンと叩くとマスターに縋る思いで話した。
「マスター、この願い、叶えてくれないかな」
「突然そんなことを言われましても、私で可能な限り応援したいと思いますが。ところで、ご迷惑でなければお客様のお名前を教えて頂けませんか?」
「俺は水上浩一です」
「教えて頂いてありがとうございます。私はこの喫茶店の店長の神崎守と申します」
マスターが水上の瞳をじっと見たあと微笑んだ。
「協力は致しますが今すぐには難しい問題かと思います。この店が嫌でなければ、何度か足を運んでもらえないでしょうか。コーヒーを飲んでお話をするうちに妙案が浮かぶかもしれません」
やっぱり魔法のようにすぐに解決することはないんだなと肩を落としたものの、マスターの全部受け入れてくれるような寛大な心に惹かれて、俺は通うことした。
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