帰るべき場所へ

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 しかし、またしても声をかけることは叶わなかった。ぬるい風を纏いながら電車はホームに到着し、がらがらと音を立てて扉が開く。  女は早足で電車に乗った。俺も後に続く。俺の背中で扉が閉まった。  ふと、違和感を覚えて振り向く。すっと背筋が寒くなった。  今の時代設置が当たり前になったホームドアが、どこにもない。それに、駅の内装が随分と古臭いし、大抵の車内にある扉の上のビジョンもない。車内の乗客は一昔前に流行ったような服を身につけて、今ではほとんど見ない二つ折りの携帯を手にしていた。  急激に酔いが覚めていく感覚に襲われ、俺は扉にもたれかかる。  どういうことだ? ここはどこだ? 今は何年だ?
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