帰るべき場所へ

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 安い酒をあおりながら改札を通り抜ける。  ポケットの中のスマホが、さっきから鬱陶しいくらいに振動している。俺は舌打ちして電源を切った。  空になった酒の缶をゴミ箱に投げ捨て、構内のコンビニでまた度数の高い安い酒を買う。  どうしてこんなことになってんだろうな。  俺は自嘲気味に笑いながら、ぐいと一息に酒を飲み干した。頭がぐらぐらして、何も考えられない。それで良い。それで良いのだ。  千鳥足で歩く俺を、人々は皆大きく避けて歩く。周りはスーツ姿のサラリーマンばかりだ。この時間は仕事終わりの通勤ラッシュの時間帯。人は多いが、俺の周りには誰も寄り付かない。おかげで俺はずいぶんと歩きやすい。まるでモーゼの海割りのようだ。
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