2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「わたしのこと好きでしょ?」
美沙の全てを見透かした鋭利な視線は、湊斗の心臓を一瞬で貫く。図星であった。
予想外のシチュエーションに出くわし、武器も何も持ち合わせていない裸同然の湊斗は情けないことに何もできず、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
幼馴染に対する密やかな想いは誰にも打ち明けたことはない。遠慮なしに言い合える心地よい関係を壊してしまうのが怖くて、美沙に対する特別な気持ちをはっきりと自覚したときも、心のうちに留めておくことを決心した。
それゆえ、好きという思いを態度に出した覚えは全くなかった。そんな思いがぐるぐると頭の中を巡る。
美沙は神妙な面持ちをしていた。
「湊斗、そんなにわたしのことが好きなんか。あんたの気持ちはよくわかった。じゃあ、今からわたしの好きなところ三つ言ってみ?」
「は、はあ? 言えるかバカ!」
「なんで。減るもんじゃないし」
「減る減らないの問題じゃねえだろ。……恥ずかしいわ」
プイッと横を向いた湊斗の視界に入るように回り込んだ美沙は大袈裟に手を合わせて頭を下げた。
「お願い! 一生のお願い! 三つ言うのが難しかったら一つでもいいし、なんでもいいから答えてよ」
「まじで意味わからん」
と、湊斗は顔を真っ赤にさせて俯く。しばらく抵抗を試みたが、美沙に敵うはずもない。観念した湊斗はぽつりぽつりと話し始めた。
「普通にかわいい」
「ほおほお」
「普通にやさしい」
「はいはい」
「なんかいい匂いする」
「ふむふむ」
「さっきからキモい相槌すんな」
美沙の返事はない。メモを残そうとしているらしく真剣な表情でスマホの画面を見ていた。
「無視かよ」
「ごめんごめん。なんか言った?」
「もういいわ」
「可愛い相槌だったでしょ?」
「聞こえてたんじゃねえか」
美沙はすっと湊斗に近寄る。微かに巻き起こる風とともに爽やかな柑橘系の匂いが漂う。
「どう? いい匂いでしょ。湊斗って甘ったるい匂いが好きじゃないから、これくらいがちょうどいいんじゃない?」
朗らかに笑う美沙を見て湊斗はもっと顔を赤くする。主導権は完全に美沙の方にあった。何を言ってもからかわれるに決まっている。
そんな彼に残された道ははただ一つ、精一杯の虚勢を張ることだった。バクバクとうるさく鳴り続ける心臓を抑えるように胸の前で腕を組み、美沙のことをまっすぐ見つめる。
「で、返事は?」
「何が?」
キョトンとした表情を浮かべる美沙を見て湊斗は足を強く踏み鳴らす。
「だから、お前はどうなんだって話」
美沙は頬を小さく膨らませながら、やや斜め上の方に視線を逸らした。淀みない漆黒の目の玉が不安定に揺れているようにも見える。イエスノーがはっきりしない態度にやきもきしつつも、わざと気にしていない素ぶりで返事を待ち続けた。
最初のコメントを投稿しよう!