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「今の国政ノ長であるトアーリンには、俺が辞めて引継ぎをする時に、必ず平等に使者を決めろと言ってあった。だから今年はお前の所に来たんだろうよ、アル。」
どうでもいいという気持ちで臨んでいた自分を思い返し、思わず俯いた時、ファルージュの手が肩に乗った。
「アル、分かればそれでいいんだ。ただし、国民の気持ちに寄り添う、ということが、これまでのスペルア所属魔法使いには出来なかった。最後に俺の所へ来たのが救いだな。」
顔を上げると、ファルージュがしっかりと頷いた。
「今のお前なら、ワクエンさんの願いも、リュシャさんの願いも、全て叶えてやれるだろう。自信を持て、アル。」
親の形見だ、と言った時の、フェルエナードの悲痛な表情。か細くとも心から完治を願う、リュシャの期待に満ちた表情。
自分達の力ではどうにも出来ない、でも諦めきれない……それが、2人に共通する理由なのだろう。
だからこそ、使者となった魔法使いである自分に、それこそ藁にも縋る思いで頼ってきたのだ。
「これ、前例無いんですよね。」
「そうだな。こういう願いが来た前例そのものはあったが、使者は全員、無理だと跳ねのけて、別の願い事をさせていた。これを成し遂げたら、素晴らしい前例が出来ることになる。それに……」
ファルージュが、また微笑んだ。
「スペルアの研修で、この話を取り入れることが出来るんだ。それは、ノーファ国にとっては大きな進歩になる。やってくれ、アル。」
深く頷いた。やることは決まった、後は……やるだけだ。
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