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ひとしきり聖なる日の使者としての動きを確認してから、通話を切ろうとした時だった。
『あぁそうだ、アル。』
「あ?」
『そんな殺気立つな。聖なる日の使者をやる者に、毎年言っていることがあるんだ、聞いてくれ。』
渋々先を促すと、トアーリンが、先程とは違う真剣な表情を浮かべ、静かに話し始めた。
『聖なる日の使者は……とある国ではサンタクロースと呼ばれている。1年の中で、たった1日を使ってプレゼントを届けに来る魔法使いのような存在だ。』
それは書物で読んだ事がある。黙っていると、トアーリンの声が続く。
『もちろん、人々が欲する物は様々だ。故に魔法はいくら使ってもらってもいい。書いてある住所に届けるのに、転送魔法を使ってもいい。渡し方は自由だ、ただし……』
トアーリンの顔が、一層真剣な色を湛えた。
『渡し方を考えろ。それだけだ。』
何を言っているのか、訳が分からない。ただ渡すだけなのに、渡し方に何の意味があるのだろう。
「渡し方って何だよ……転送魔法を使ってもいいって、今言ったばかりじゃねぇか。」
『やれば分かる。俺から言えるのはそれだけだ。分かったな。』
そう言うなり、誰かに呼ばれたトアーリンは、そのまま通話を切ってしまった。
嫌な沈黙と共に、呆然とした自分が取り残されていた。
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