様々な理由

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 まず最初に向かったのは、盗まれた指輪を返してほしい、と願う、フェルエナード・ワクエンの所だ。  「え……お前、アル!? アルスラーだろ! 久しぶりだなー。」  目の前で嬉しそうにしている男……通称フェル、学舎に通っていた頃のクラスメート。国民として、魔法の力を持たない男だ。  「……名字のワクエンで何となく察していたが、やっぱりお前か。今年は俺が聖なる日の使者だ。お前の欲しい物を見て、少し話したくて来た。入っていいか。」  快く通してくれたフェルエナードの家は、質素な家だった。暖炉では、火が赤々と燃えている。その近くに座ってから、フェルエナードが口を開いた。  「で、話ってなんだ?」  「簡単だ。お前の欲しい物が……盗まれた指輪、だろ? それはもちろん魔法で見つけられる。容易く出来るだろうよ。でも……何で、盗まれちまった指輪にこだわる?」  魔法使いの世界では、盗まれた物と同じコピー品を作れば終わりだ。それを伝えると、フェルエナードが苦笑する。  「分かってるよ、そうだ、コピー品でもいいと思うんだ。でもな……あの指輪は、親の形見なんだ……本当に大切な、コピー品じゃ作れない物だ。」  フェルエナードの真剣な目が、こちらを捉える。  「アルスラー、頼むよ。あの指輪じゃないとダメなんだ。父さんと母さんの名前が入ってる、大事な指輪だ。クリスマスを過ぎてもいい、見つけて、届けてくれ。」  頷くと、そのまま他愛無い話をして別れ、何も言えないまま、ワクエン家を後にした。
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