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次に向かったのは、命の期限を消してほしい、と願う、これまた国民のリュシャという名前の女性。
「リュシャです。名字はあまり言いたくないので。」
その腕は、見るからに細い。顔色も悪いところを見ると、病気による余命、というところだろう。
「今年度、聖なる日の使者に任命された、アルスラー・マーフェルです。命の期限を消してほしい、という内容が、本当に理解出来ているのか不安だったので、訪問させていただきました。」
そうですか、と呟いたリュシャは、わずかに期待を滲ませた表情をしていた。
「命の期限を消してほしい、つまり……病気を治すことで、余命宣告を消してほしい、ということですね?」
リュシャが頷いた。もちろんこれも、魔法で出来る。だが、ここまで治療にかけてきた時間と労力が、全て無駄になることにもなる。
薬でも、苦しい治療でも、何でもない……ただの治癒魔法を使ってしまえば、どんな病気でも一瞬で治ってしまう。それならば、治療用の資金の方がいいんじゃないのか。
それを伝えると、リュシャが微笑んだ。
「アルスラーさん、ありがとう。私は……昔からこの病気のせいで、いつ死ぬかという言葉に怯え、運動も何も出来ないまま生きてきました。もし治るのなら、全て治して、やれなかったことをやっていきたいんです。」
リュシャの目が、点滴に移った。
「どれほど時間がかかってもいい。余命という概念を、病気を治すことで消してください。お願いします。」
頷くと、リュシャの病室を後にした。フェルエナードの理由も、リュシャの理由も、上手く理解出来ないままだった。
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