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最後に向かったのは……数年前にスペルアから退いた、魔法使いの先輩の元だった。
「ファル先輩……」
「おぉ、今年の使者はお前か、アル。寒いだろ、中入ってくれ。と言っても、俺がたった1人で住む、楽しくも何ともない場所だけどな。」
苦笑しながら家の中に入る。木の香りが漂う安心感溢れる家の雰囲気は、ファル先輩こと、ファルージュらしいものだった。
「先輩……魔法使いの力を抹消って……国民になりたい、ってことですか。」
頷いたファルージュの顔は、とても穏やかだった。
「俺は、こうしてスペルアから退いて分かったんだ。ただの人間として暮らすことの幸せ、そして開放感を。」
穏やかな声を、息を詰めて聞く。
「アル、考えてみろ。魔法使いとして生まれた者は、魔法を使った職業に必ず就かないといけなくなる。国民は商業など、色々な道や考え方があるのに、魔法使いだけはそれら全てが狭い。そう考えると、国民の方が気楽に生きれる気がしたんだ。」
色々な考え方、その言葉が妙に刺さる。
「魔法使いと国民の考え方は、天と地ほどの差がある。苦労せずに何かを出来る魔法使いと、全て自力でやらねばならない国民だからな。俺は……元魔法使いとして、国民に寄り添える新たな国民になりたいんだよ。」
穏やかなファルージュの声に、息を吸った。
「ファル先輩……実は他にも2人、俺には理解し難い物を望んできた人がいるんです。」
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