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「届かなかったんですね。僕たちのことはあまり気にせずに生きてほしかったのに……」
ルカくんは時々、お兄さんの様子を見に行っていた。しかし、彼はここに帰る度に表情を曇らせていく。
何か良くないことがあったのだろうと思ったが、予想は当たってしまった。
「ルカくんの気持ちわかるよ、痛いほどに」
波が当たらないところにお兄さんを引き上げる。
ルカくんはしばらくお兄さんを見て黙っていた。
死者と生者は交流できない、生きている時間や世界が違うから。
ルカくんみたいに思いが成就しなかった人たちはたくさんいる。
絶望する彼らに私はいつも……。
「この世は悲しい結末で終わったかもしれない。けど今ここはあの世。この世からあの世にたどり着いた旅人なのよ、君のお兄さんは」
あの世とこの世の違い、そして死から生まれる希望を語って正しい方向に向かわせる。
それが境目の監視者の役目。
魂を希望に向かわせるのが私たち、境目に生きる全員に課せられた義務だ。
「さあ、お兄ちゃんの新しい一歩を祝う日なんだよ。ルカくん?」
「そう……ですね。すいません。あの世の住人なのにこの世の考えが染み付いていて」
「ううん、誰もが通る道だもの。君が優しいなら大丈夫だよ」
その後、手配した車にお兄さんとルカくんを乗せて見送る。
「本当、早瀬の仕事っぷりは良いものだな」
彼らの今後を案じていると憎まれ口を叩く片岡が珍しく褒めてきた。
「あら、当然のことよ。片岡だって素敵じゃない。けっこう良い評判を聞くわよ」
片岡もプロの領域に入っている。時々風の便りで片岡とあの世に来た人たちの交流や感動する話を聞くのだ。
いつもは邪魔者扱いしているけど、悪い人ではないのよね。
「そうかな、自分はまだまだだよ。早瀬とルカのやり取りを見て感じたものでね」
「ふーん」
せっかく海に来たのだから風景を堪能しながらぶらぶらすることにした。
始まりが海とは生命力を感じるものだと私は思う。
すべての地球の生命はたしか海から始まったと聞いたことがある。
プランクトンから魚、両生類からと長い命のリレーを繋いでようやく人類にたどり着く。
この世界が生まれたのはもう少し後のところだろうか。
長い時の間にこの世とあの世で何回、さよならとおめでとうが繰り返したのだろうと考えたところで私たちは職場に戻った。
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