西から来たる旅人

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 小高い砂丘の上に、人影が差した。  ここは砂漠。  はるか彼方、地平の遠く見渡す限り、群青色の空と黄土色の砂の大地が、視界一面に広がっている。  砂漠にも、道はある。  砂地に埋もれた硬い地面の上を、長年にわたり人間や獣、魔物たちが歩き続け、砂の大地に溝跡の線を引き続けている。  それが砂漠の道である。  そんな道のりに点々と、足跡を残しているのは、自らがその足で歩いてきた証と言える。  されど明日にはもう、吹き荒ぶ砂嵐で消し去れているだろうが。  人影が後ろに顔を背けると、砂岩を加工して造られた城壁が、白亜の大蛇のようにうねり、砂上の都市を囲んでいた。 「凄い……」  立ち尽くす人影は、思わず息を呑む。  突如、砂漠に王宮の宝物庫に飾ってあるような風景画が、目の前に荘厳な景色として現れたのだ。  4mほどある高い城壁の内側には、2万人以上が生活している中規模の都市が形成されているらしい。  都市の中央部には、樹木に囲まれた大きなオアシスが鎮座しており、自らの存在の大きさを誇示しているかのように思えた。 「あれが、砂漠の町…サンタフル」  声の主は長旅の疲れを忘れ、感慨深く呟いた。  砂漠の道から逸れて、わざわざ小高い砂丘に登っていた。ようやく辿り着いた町の景色を、視覚と記憶に焼きつけたかったからだ。 「さてと、行きますか」  決意を胸に、声の主は歩きだす。  旅の終わり、そして始まりの地へと。
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