2人が本棚に入れています
本棚に追加
「避けられるものなら避けてみろ。これがサリア騎士団仕込みの…!」
大男レンバルが木刀を地面に振り下ろした瞬間、砂塵と小石が炸裂。
少女が頭に巻いていた麻布のターバンが、風圧により吹き飛ばされる。
「…破城撃だ」
視界が良好になると、少女がいた場所の地面に大穴が穿たれていた。
「これが東国の練気術…」
興味深そうに呟いた少女は、またもやレンバルの力任せな一撃を寸前で躱し、冷静に状況を分析している。
「すばしっこい鼠め」
レンバルは衝撃で粉砕した木刀を投げ捨てて、店先に立てかけてあった竿を掴み、槍の代わりにして槍術の構えをとる。
リーチ差を活かして、レンバルは攻め方を変えることにした。竿のしなりを利用して、巻き込むように打撃と突きを繰り返す。
それでも冷静に相手の動きを読んだ少女は、小柄な躰を木の葉のようにひらひらと舞い踊らせ、レンバルの猛攻を受け流していく。
騎士崩れの男は知らない。
その細心な少女の躰に叩きこまれた血の滲むような修練の痕を。
少女の身に宿る修行の刻印は、最大限に空間把握力という感応を引き出し、見切りという高等技術を体得していることを。
「では、いきます」
腹の底から力強い息を吐いた少女の紅顔が、ぎゅっと引き締められる。
たて続けに躱され動揺しているレンバルの隙を見逃さず、槍の猛攻をかいくぐって最短距離の軌道から神速の剣撃が放たれる。
「ごめんなさい」
少女の謝意とともに斜めに繰り出された木刀の袈裟斬りが、鋭く威圧していたレンバルの脇腹に吸い込まれ、鈍い衝撃音を上げた。
「ガハッ!」
鮮やかな一撃のもと、腹部の急所を強打されたレンバルは、痛みで身動きがとれず行動不能となった。
それでも少女は追撃の手を緩めず、再びレンバルの急所へと狙いを定める動作をとる。
これを残心という。
「――そこまでにしておけ」
間延びし、酒焼けしたしゃがれ声が、緊迫張りつめる決闘の場に終幕を告げた。
最初のコメントを投稿しよう!