つるぎの少女

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「それにしても…」  クンクハルの穏やかな青の瞳は、照りつける灼熱の日射しを睨みつける。  親譲りのクセっ毛のある紫色の髪が、太陽に焦がされている気がしたからだ。 「…喉も渇きます」  乾燥地帯特有の乾いた高気温は、自覚できない遅行性の猛毒のように生物の水分と体力を奪っていく。  そのことを思い出したクンクハルは、腰元にぶら下げた革製の水筒に手を伸ばし、水をごくごくと咽喉に流しこんだ。 (この場所は、最小限の動きで相手を仕留める神刀流にとっては、適地ともいうべき修練場になりそうです)  クンクハルは心中で納得する。  口許を手で拭い、水筒に残った水を頭頂部にかけ、微かな熱を宿した紫色の髪の毛をかきあげた。  気絶したレンバルの容態をしゃがみ込んで確認していた男が立ち上がり、パチパチパチとクンクハルに拍手をおくった。  我に返った見物人たちも歓声を上げて、クンクハルの周囲は称賛と興奮の熱気に包まれている。 「小僧にしては、いい腕をしている。試合前の約束通り、お前には短期で高報酬の依頼を引き受けてもらう。心してかかれ」  酒焼け声を鳴らした男は、オアシスの町サンタフルの顔役バガン・ラヴァスである。  顔役というのは町の施政者、統治者ではないが、町の象徴であり世間に声望の高い人物のことをいう。    異域の町では、顔役の存在は珍しいことではない。バガンは荒っぽく言葉尻も粗暴だが、筋は通す律儀者としてサンタフルの住民や同業者たちからも慕われていた。 「はい、喜んで!」  クンクハルは東方への旅を始めてから、初めてそのあどけない童顔に、嬉しげな表情を浮かべた。
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