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「英雄がそんな名前の架空の人になっていたとはな」
力無く呟いた俺は、そっとレヨンの元に歩み寄った。
「貴方は?」
「俺は、レエスヴだ」
「レエスヴさん」
彼女は嬉しそうに笑って俺に駆け寄った。
「どうしたんだい?」
「この方が、私を助けてくれたんです」
「そっか」
オレオルと仲睦まじそうな為、俺は一言だけ言った。
「元気そうでよかった……じゃあ」
「待って」
俺が立ち去ろうとすると、レヨンが慌てて言った。そして両手で俺の顔に触れた。
「本当に、貴方がレエスヴさんね」
「あぁ」
レヨンは嬉しそうに笑って俺に抱きついた。俺が戸惑っていると、彼女は続けた。
「私、目が見えるようになったんですよ……貴方のお陰で」
「そうか、よかった」
「私、貴方にたくさんお礼がしたいの。だから、お金も貯めて……」
「気持ちだけで充分だ。幸せになれ」
「私、貴方と暮らして幸せだった。だから、一緒にいたいです……だから、迷惑じゃなかったら、その……」
「お前を買う金は無い。だから、共に暮らすには、俺と結婚することになるが……」
俺はそっとレヨンを離した。彼女は俺を見上げていた。
「構わないか?」
「はい。よろしくお願いします」
彼女は嬉しそうに笑って泣いた。
「泣くな」
「泣いてまぜぇん」
少しして、俺はオレオルを見た。彼は笑って俺達を見て言った。
「お嬢さん、一つだけ間違いがあるよ。彼の名前はレエスヴではない。ソレイユだ」
「まぁ。では、あの英雄様って……」
俺はそっと人差し指を口元に持っていった。するとレヨンは笑って言った。
「私に光をくれた英雄様は、村に光をくれた英雄様だったのですね」
「そういうことだ。まぁ、光の英雄って所だな」
オレオルは俺達に背を向けた。俺はその背中に言った。
「その話通り、他所の村で暮らす。だから、手紙出すよ」
「あぁ、待ってる」
オレオルは去っていった。それを見届けると、建物の奥からフォンセが現れた。
「ふん、思ってたより面白くなかったよ。けど、悪くはない……さっさと行きな」
フォンセは奥へ行ってしまった。
俺達はその背中に一礼すると、村を去った。
そして俺達は、西の二つ隣の村を荒らす魔物を倒し、英雄と呼ばれるようになってしまった為、その二つ隣の村で、二人で穏やかに暮らした。
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