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C.Z.の出現
20XX年、地球上の総人口カウンターが99億を超えた。右肩上がりに増加し続けていた人類は、100億人まで残り数千万人と迫っていたが――突如、増加から減少に転じ、その流れは一気に加速した。
人類を襲った脅威は、核戦争でも食糧危機でも異常気象でもなく、約0.1μmの未知のウィルスだった。欧州の港町で最初の感染者が発見されると、瞬く間にユーラシア大陸を汚染し、水際対策も虚しく南北アメリカ、アフリカ大陸へと拡大した。最後の希望とされたオセアニア地域も、某国の王族が密入国した船に保菌者が紛れ込んでおり、孤島の利を活かすことは出来なかった。
最初の感染者、通称C.Z.が報告されてから1ヶ月。日本政府は、大使館職員の速やかな帰国を受け入れたが、その過程であっさりと感染者の国内侵入を許してしまった。この最初の失敗により、東京と大阪の二大都市は爆発的感染に陥り、混乱を極めた。政府は、主要機能を北海道と九州に二分して委譲すると、自衛隊に治安維持の名目で感染者に対する武力行使を許可した。
「先生、ご苦労様です」
「ありがとう」
東都中央病院感染症内科の診療部長であった松方淳は、自衛隊関東第三基地内の衛星会議室の円卓に着いた。彼の勤務していた病院は、半月前に感染者の襲撃に遭って廃墟と化し、現在は立入禁止区域に指定されている。救出された松方は、専門性を買われて、政府の感染者対策室の一員となった。
関東第三基地は、元は航空自衛隊の一基地だったが、近隣の陸上自衛隊駐屯地を吸収合併し、関東地区における要塞の1つとなっている。
「通信、繋がります」
タッチパネルを操作する通信士が告げると、正面の大型ビジョンが4列×3段に12分割され、白衣に身を包んだ面々のバストアップが映った。松方同様、国家機関から要請を受けて感染者対策に当たっている、各国の感染症研究の権威達だ。
「やぁ。皆、生き延びているようだね」
画面中央、少しやつれた髭面の男が、笑えない冗談で沈黙を破る。C D Cのタイラー博士だ。
「ああ。だが、来週はナントを離れる。西に建設中のシェルターに移るんだ」
左隣で、M S S所属のルブラン教授が真っ白な顎髭を撫でながら溜め息を吐く。
「ねぇ、ブラジルのサントス博士は?」
せっかくタイラー博士が和らげた雰囲気を、ロシア保健省のキリエンコ女史が打ち破った。右端の列の3段目、丸顔の老体の代わりに映っているのは、眼鏡をかけた面長の青年だ。
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