act.1 君の待つ街に

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 その後、部屋に帰った美音は美夜さんと一晩中語り明かしたという。  美音には大分前の話になるが、あの事件の時に自分を守ってくれた出雲の家族の話や、実父が目の前に現れた時に感じたのは、恐怖よりもちゃんとした怒りの感情で。  それであの実父としっかり向き合う事が出来たと。  自分をそういう正しい反応が出来る人間に育ててくれた出雲の両親や、じいちゃんばあちゃんにとても感謝しているとか。  何より、いつも自分を精一杯護ってくれた俺や兄妹達の存在がとても嬉しいと。アメリカですら美音は独りになる事など決して無かったのだから。  自分にそんな人生を与えてくれた美夜さんにも、産んでくれてありがとうと。感謝の言葉をしっかり伝えられたと美音は言った。  だからこそ、美音は美夜さんの幸せを誰よりも望んで祈っているとも。  それから成人式の話もしたそうだが、やはり美音は福島で俺と一緒に二年遅れで祝いたいとも伝えたそうだ。  美夜さんは得意の和裁で美音の振袖を仕立てていると言う。 「その時はママと藤原さんとで福島のお家に来てね。ちゃんとママにもお祝いをして欲しいわ」  出雲の家族にもそう言われているのよと、美音は伝えて美夜さんを又号泣させたそうだ。    俺の美音はいつだってそういう所が凄い。  誰を、何を恨むでもなく、いつだってちゃんと前を向く。  あんな小さな身体のどこに、そんな力があるのかと俺はいつも圧倒される。  俺も頑張らないと。  美音に相応しい男は、いつまでも同じ所に立ち止まらない常に進化する男だ。  頑張れ、俺。  俺と美音は翌日の昼頃の新幹線に乗って、ようやく福島への帰宅の途に着いた。
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