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尖った耳をひくひくと動かした。数百の声に混じって、空気を吸って風のように吐き出す楽器の音色が聞こえる。マイケルが大好きな――セドナも好きだ――氷菓子の移動販売の宣伝曲だ。
セドナは人込みをすり抜けて走り出した。人にぶつかりそうになって、謝って、そしてすれ違う。星々の海からやって来た人たちと、すれ違う。橙の人。青い人。三つ目の人。羽毛の人。水かきのある人。紫やオレンジに発光する八本腕と、すれ違う。
セドナは、ふふ、と笑う。
そうだ。もし今度あの子から、自分が変わってるかどうか聞かれたら、こう答えよう。マイケル、あんたはすごく変わってる。これ以上ないってくらい、最高に。
彼女の向かう先から、楽し気な色のついた風が渡ってくる。その源の、「氷菓子」の薄紫の旗をひらめかせた手押しのカートが見えた。十人ほどの、もの欲しそうな顔の子どもたちを従えている。
その中のひとり、弾むように茶色の髪が揺れている。変わっているから、すぐに見つけられる。セドナは彼の名を呼んだ。「マイケル!」
マイケルがセドナを向いて、にっと歯を見せた。「ママ!」
セドナは小走りのまま、ああ、とため息をつく。あの顔から出る次の言葉は、ひとつだ。
「あれ買って!」
マイケルが、セドナに向かって跳ねるように駆けてくる。
セドナは大きく両腕を広げた。
遠く地球を離れて、「最後の一人」が、優しい異星人の胸に飛び込んだ。
そのまま二人、手をつないでカートに向かって歩き出す。セドナの手の中が、アルゴの日なたと青空になる。
きんと爽やかに冷えた水色の氷菓子が、セドナとマイケルを待っている。
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