五万光年の氷菓子

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 余計なことを、と金色の目を細めたディアニに、セドナはいいのよ、と頷いた。緑色の細い三本の指で、空の月の、さらにその先を指さした。 「銀河のうんと端っこに、たくさん人の住んでいた星があったの。ある日、その星から電波が届いたの。『誰かいますか?』って。でも、わたしたちの星の調査船が着いた時には、その星に居た人はみんな……だめだった」 「なんで」 「なんでかな。火の粉。電気の火花。黒い煙。そんなものが地上を覆ったのね」 「ふうん。じゃあ、その最後の生き残りがマイケルってこと?」 「そう。調査船が見つけて、赤ちゃんだった彼を連れてきたの。いろいろ検査が終わって、ずっと箱の中にいるより、どこかのおうちで暮らした方がいいってことになって、うちに来たわけ」  がれきの隙間で、たったひとり。間もなく消え入る灯火のように、か細い声で泣いていた。その横で、静かに力尽きていた二人のおとな。彼をかばうように手を添えて。彼の上着の小さなポケットの中には、折りたたまれた一切れの紙。走り書きの、地球の短いことば。もしも、誰かが彼を見つけたときに、彼の名を呼べるように。  マイケル。  セドナはディアニと別れ、向かいの飾り屋の前に立った。  過ぎ越しの夜、家の入口に飾る八角形の板が、所狭しと壁に吊るされている。板にはめ込まれた、さらに小さな八角形のガラスが、ひとりでにチカチカと虹のような色を放って光る。店主が長い鼻で、壁にかかった飾りの位置を整えている。  セドナは緑の目であたりを見回した。「なんで、いないのよ」
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