五万光年の氷菓子

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 セドナが市場の長い通りの端に着いたとき、そこは既にひどい賑わいだった。  半分欠けた昼の月がふたつ重なって、薄曇りの空の向こうに浮かんでいる。そういう日に、過ぎ越しの食材や飾り物を買うのは縁起が悪い。  この言い伝えがあるから、きっと市場は空いているだろうとふんで来たのに、同じ思考回路を持つ人は他にもたくさんいたらしい。  彼女は、肩から下げた濃紺の買い物袋の端をぎゅっとつかみ、その反対の手で、隣に立つ息子のマイケルの手もぎゅっと握った。「絶対、離れないでよ」 「大丈夫だよ」  マイケルはその手を振りほどこうと、腕を上下に大きく揺すった。  セドナはさらに力を込めた。「駄目。あんた、いっつもふらふらいなくなるから」  マイケルから、聞こえよがしな「はあ」というため息がひとつ聞こえた。  不満げに尖ったその薄い赤の唇や、きらきらと風景を反射する焦げ茶色の目や、ゆるくクセのかかった明るい茶色の髪を、セドナは眺めまわした。  九歳か。私たちのところにやってきたときは、ふにゃふにゃの塊だったくせに。 「よし。行くわよ。買い忘れのないようにしなくちゃ」 「なんでパパは来ないの」 「急に仕事が入ったんだって」  二人は、市場に一歩足を踏み入れた。
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