五万光年の氷菓子

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 アルゴの北半球で今年初めて摘み取られた、赤や青や黄色のレトナーク。ビー玉のような実が、一抱えもある大きな桶いっぱいに艶々と光っている。  鼻にすうっと刺さる、アルゴの日なたの土と濃い青空の匂い。  ……赤は付け合わせにはいいけれど、そのまま食べるには酸っぱすぎる。青は食べた後、舌と歯がどぎつい色になる。黄色は青より甘みが少ないけれど、無難。 「マイケル、どれがいい?」 「青!」  セドナは考えるように口元に指を当ててから、言った。 「そう言うと思った。黄色、三百テルぺ分ください」  隣からまた、不満そうな声がする。「じゃあ、何で聞いたの?」 「一応」 「なら、聞かないでよ」  三百テルぺを果物屋の主に渡すと、身長よりすらりと長い腕を器用に操って、紙袋いっぱいの黄色と、おまけの青も数個入れてくれた。 「ありがとう」  セドナはそれを受け取って、買い物袋に放り込んだ。その袋の先で、横にいた親子連れの子どもの方が、マイケルを緑の目でじっと見つめていた。  これは、まずいことが起きそうだ。  セドナがそう思った次の瞬間、そのまずいことが起きた。 「ねえ、君さ、ずいぶん変わった顔だね。どこから来たの?」  慌てたように、少年の母親が子どもと同じ緑の目を瞬きさせた。「ああ、すみません、失礼なことを」 「いえ、いいんです」セドナは微笑む顔を作った。そのあとの言葉は飲み込んだ。  ――慣れてますから。  彼女はわざと大きな声を出して、その場を離れた。 「さあ、次はウェルフリの飾りを買わなくちゃ。あれがないと、過ぎ越しの気分にならないでしょ」  手を引く後ろから、小さな声がした。 「僕って、やっぱり変わってる?」  セドナは手を握り直した。「そんなことない」
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