五万光年の氷菓子

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「あの子、わたしのところで本当に良かったのかな。『最後の一人』なのに」 「上手くいってないの?」 「そういうわけでもないんだけど、でも時々、わたしじゃない方がもっと、とか思ったり」  セドナの視線がゆっくり下に落ちた。  ディアニがその顔を覗き込むようにして、静かに言った。 「じゃあ、マイケルを私のところに寄こして。私の方が上手く育てられると思う」  セドナは顔を上げた。「え?」 「そうしようよ」 「それは、でも」  ディアニの口調がからかうように変わった。 「そして、セドナ、マイケルに言うの。『わたしには無理。ディアニのところへ行って』って。それから、空っぽの子ども部屋を掃除して『ああ、これで安心』って思えばいい」  セドナは困ったようにディアニを見つめたあと、後ろを振り返った。行き交う人の奥に、ふわふわの茶色の髪が見え隠れした。彼女は空っぽの手を握りしめた。  マイケルの温もりの残るその手が、それはできない、と言った。 「そんなこと」彼女は首を横に振った。  ディアニが口の端を上げた。 「でしょ? あのさ……気休めだけど、うちのお祖母ちゃんが言ってた。『親になろう』なんて思わないほうがいい」ディアニが橙の三本指で、グーテのとさかのついた頭をごしごし撫でた。「私たちは毎日少しずつ、この小さな生き物から『親にしてもらっている』。そう思うくらいが、ちょうどいいって」  グーテが、微笑み合った二人を見上げた。 「ねえ。『最後の一人』って、なあに?」
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