お誘い

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お誘い

『恋愛について、一緒に学ぼう! 未経験者、大歓迎♡』 (……怪しい……!) 半ば強制的に手渡されたチラシをテキトーに4つ折りにすると、静かにトートバッグへねじ込んだ。 俺は宮原陽斗(みやはら ひなと)、大学一年。 入学式は最近終えたばかり。 と、それはさておき。 (後で捨てよう) 今日はまた、なんとも怪しげなサークル勧誘に引っかかった。 さっさと立ち去ろうとすれば、後ろから腕を掴まれる。 「ああ、待って。そんなに慌てなくてもいいだろ?」 「ちょ……っ離してください」 軽くにらむと、相手は僅かに肩を落とし、その端正な顔を寄せてきた。艶やかなシルバーの前髪が、俺の鼻先を微かにくすぐる。 (近い……!) 俺は心臓をドキドキさせながらも、肩を怒らせた。 が、相手は一切動じない。 それどころか、グイグイ押されて壁際に追い詰められてしまった。 イケメンは無駄に深刻な表情で、耳触りの良い声を静かに響かせる。 「いや、ダメだ。ここで離したら君はどこか彼方へ行ってしまうだろ? そしたらまた次は、いつ会えるのかわからない。だから、どうか行かないで……」 「……っお、お腹が空いてるんです! だから食堂に行くんですよっ! なんか問題あります!?」 キッと睨んで言い返すと、相手は盛大なため息をついた。 「はぁぁ……僕がこんなに真剣にお願いしているのに、ランチを優先させたいんだね……君は、僕を見捨てるの? 僕と一緒に、素晴らしい恋愛体験をしてみようとは思わないのk……」 「失礼します」 食い気味で言い放ち、手を振り払うと、俺はスタスタとその場を後にしたのだった。
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