帰りたい場所(イラスト追加しました)

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自分でも、苦しい言い訳にしか聞こえないけれど、俺は行く。 ドアを押し開け、外に出ると、涼やかな風が頬を掠める。 自室の鍵を閉め、俺は東条の部屋のインターホンに指先を伸ばした。 (風邪薬風邪薬風邪薬風邪薬……) 東条が出てきたら、真っ先に風邪薬が無いことを伝えよう。 そして貰ったら、帰る。 なんなら金払うし。 それだけ。 ……よし。 ピン、ポーン……。 (押した……っ) 押してから、今すぐ逃げ出したい気持ちに駆られる。 が、逃げてはダメだ。 逃げたらただのピンポンダッシュだ。 半ば混乱しながら待っていると、ガチャリとドアが開き、東条がひょこっと顔を出した。 俺は目を合わせず、ぎこちなく挨拶をする。 「よ、よう……」 「え、陽斗君!?」 見るからに、東条は驚いているし、喜びのオーラも感じざるを得ない。 俺は軽く咳払いをすると、言った。 「あ、あのさ、風邪薬、ある?」 「……」 返事がない。 不思議に思い見上げると、東条は俺を見つめたまま固まっていた。 「……なんだよ?あ、無いならいいんだけ……」 「陽斗君……っ!」 「ふぇ!?」 避ける間もなく。 俺は東条に抱き締められた。
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