256人が本棚に入れています
本棚に追加
(もー……!こいつの距離感、いつもどうなってんだよっ)
真っ直ぐな視線に耐え切れず目を逸らすと、東条は薄ら笑みを浮かべて、俺の顎を優しく捉えた。
そしてクイッと上向かされる。
「な、なに……っ」
「ん?そんなに美味しかったなら、少し味見をさせてもらおうかと思って、ね」
「え……んんっ!?」
断る暇もなく、唇が塞がれる。
そしてまさに味見をするかのように、唇を甘く吸われると、腰が砕けそうな感覚に襲われる。
「ぁ……ん、やぁ」
「ん……確かに。これは僕も頂こうかな」
「……っ、か、勝手にしろよっ!」
解放され、俺は顔を真っ赤に染め上げて、東条に背を向けた。
東条は上機嫌でキッチンへ行き、自分の分の雑炊の準備に取り掛かる。
(くそ……っ、東条のやつ……)
一体どういうつもりで……と思いかけて、東条の言葉を思い出す。
『陽斗君にとってもプラスになるならば、僕は陽斗君にこそ、この溢れんばかりの欲求を受け取って欲しい!』
(確か、ハグも、とか言ってたよな……)
要するに、俺は欲求の捌け口みたいなものなのだろう。
(捌け口……)
あまりの聞こえの悪さに、心が暗くなる。
けれど別に、男同士だし、恋愛感情に発展して恋人同士になる訳でもないだろうし、お互いにとってWinWinなら問題もないはずだ。
(俺は気持ちいい思いが出来て、東条も欲求を発散できて……問題ない、ってかむしろ都合が良い、よな)
理屈上ではそう、納得も出来る。
が……。
なぜか心には、靄がかかったままだった。
最初のコメントを投稿しよう!