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なぜここまで気に入られてしまったのか。
お構いなしに突っ込んでくる相手に言葉も出ない。
(っとに……なんなんだこの人! ここで家なんて教えたら、絶っっっ対ついてくるぞ……!)
今日だけでも、この人がそういう人だという事はよく分かっている。
それに、お互いまだ名前も知らないのだ。
なのに、この馴れ馴れしさ。
家を教えるなんて、言語道断というもの。
俺は思考を巡らせ、一芝居打つことにした。
「あっ、やっべ……! 俺今日バイトなの忘れてたっ! じゃ、すみませんが急ぐので……!」
「ええっ!? そうなの?」
「はい、そうなんです!」
「そっか……あ、恋愛サークルの件、考えておいて欲しいな」
「わ、わかりましたっ!」
本当はバイトなんてないし、恋愛サークルなんて死んでも入らないけれど、俺は軽く会釈をしてその場から離れる。
と、そのタイミングで、イケメンの周りにどこからともなく女性達が集まってきた。おそらく、うちの大学の学生だろう。
「東条くーん!やっと見つけたぁ!もう、すぐどっか行っちゃうんだからぁ。もう帰るのー?」
「ねぇねぇ、そんなことより!この後遊びに行こうよ!」
「あっ私、駅前に出来たカフェ・バーに行ってみたぁい♡」
きゃっきゃっ、うふふ。
女子たちは ”東条” を囲んで目を爛々と輝かせている。
その後も、ワラワラと女子ばかり集まり、あっという間に東条は見えなくなった。
(うわ、やっぱイケメンだし人気あんのかよ……てか、苗字、東条っていうんだ)
俺はさりげなくイケメンの名前を把握し、気配を消して駅へと向かったのだった。
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