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知宏 side
寒い。
知宏は着物で来たことを後悔していた。
ネットで調べたら神社には正装で行くべし、というような事が書いてあったので和装で来たのだが、どうやら少数派のようだ。
スーツにコート、マフラーまで着てきたケイティを見て流石経験者だな、と関心していると、時子からメールがきた。
『仲良く初詣してますか?』
そうだった。
行列もなかなか進まないし賽銭箱までは時間がかかりそうだ。
何か話をして盛り上げよう。そう思い、無難に天気の話題から入る事にした。
「それにしても今日は寒いな。雪でも振りそうだ。俺もスーツにすれば良かった」
「あの、申し訳ありません、兄上。その、頂いた紋付は……」
知宏の言葉に何故かケイティは頭を下げた。スーツで来た事に対する嫌味だと思われたようだ。
「いや、責めている訳ではない。気にするな」
会話が途切れた。
何か次の話題を探さなくては。
「……日本には慣れたか?何か困っている事があれば遠慮なく言うのだぞ?」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
またしても、会話が途切れた。やはり仕事以外だと話が進まない。
世間の兄弟達は一体どんな話をしているんだろう。
行列を見ると家族連れが多いようだ。
参考になるかと思い聞き耳を立てていると、「おみくじ」という単語が聞こえてきた。
そうだ、初詣では「おみくじ」をするのが定番だとネットに書いてあった。
「おみくじ、やるか?」
「……おみくじ?兄上が、ですか?」
知宏の予想に反してケイティは大きな目を更に大きくして驚いていた。
何か変な事を言ったかと逆に驚いていると、ケイティが視線を逸らし慌てたように答えた。
「あ、いえ、兄上はそういった占いのような物はお嫌いではなかったかと……それに……」
ケイティは躊躇うように言葉を切ったが、伺うように知宏の目を見て先を続けた。
「そもそも兄上が初詣など、一体どうなさったのです?」
ケイティが疑問に思うのも無理はない。
本来、知宏は神どころか他人を信用しないのだ。神頼みなど無縁にも程がある。
時子に言われて来ただけだと言えば納得するだろうが、彼女の名前を出しても良いだろうか?
考え込んだ知宏を見てケイティは何を思ったのか
「あの、甘酒、飲みませんか?私貰ってきます」
そう言って列を離れて小走りで去っていった。
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