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ケイティ side
行列に並びながら、ケイティは未だ知宏の意図を理解できず混乱していた。
初めは仕事関係かと思ったが違うらしい。
心配した服装も特に何か言われる事もなく許されたのをみると、それ程大事でもないのかもしれない。
では何だろう?
知宏本人に聞くという選択肢は無い。聞いて答える人でもまともな答えを返してくれる人でもないからだ。
彼の言動から推測しようにも、ただ隣に並んでよく分からない事を尋ねてくるばかりで、更に分からなくなるだけだった。
そもそもこの兄が初詣など、似合わない事この上ない。神どころか、人に「頼む」という事を知らない人なのだ。何か裏があるに違いない。
義和は関係ないと言っていたが何か知っている風だった。
最悪彼に助けを求めよう。
そう思いポケットに手を入れ携帯を掴み、いつでもかけられる体制を整えた。
そんなケイティの思惑を知ってか知らずか、知宏が「おみくじ」などと言い出した。
義和や部下達が聞いていたら爆笑ものだ。
混乱がピークに達し、ケイティは無駄とは思いながらも思い切って今回の奇行の理由は何だと聞いてみた。
すると兄は難しい顔をして黙り込んでしまい、もしや地雷だったかと妙な汗が吹き出した。
堪らず視線を逸らすと視界の端に「甘酒」ののぼりを見つけた。
あれを口実に一旦逃げよう。
寒いと言っていたから丁度良い。
一言断りを入れ行列を離れ、慌てて義和に電話をする。
『もしもしケイ兄?どした?』
「義和!あ、兄上がおみくじを……」
「ケイティ!」
「あ、兄上っ!?」
後ろから肩を叩かれ反射的に携帯をポケットにしまって振り返る。
「お前、金は持っているのか?日本の神社ではカードは使えないんだぞ?」
バカじゃないのか
ケイティは生まれて初めて兄に対してそんな感情を抱いた。
そんな事知らないのは知宏だけだし、二人共列から離れてしまったら折角並んだのにまた最後尾に戻る事になってしまう。
ケイティはイラつきをおさえ「甘酒は無料です」とだけ伝えた。
二人分の甘酒を受け取り一つを知宏に手渡すと、彼は怪訝な顔をした。
「飲みませんか?温まりますよ」
そう言うと知宏はフワリと微笑んで礼を言った。
初めて見た兄の笑顔に驚き呆然と立ちすくしていると、知宏は「戻ろう」と言って歩き出した。
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