初詣

11/12
前へ
/12ページ
次へ
知宏 side 「飲みませんか?温まりますよ」 差し出された甘酒を受け取りながら、知宏は考えた。 もしかして、寒いと言ったからだろうか? 自分の事を、気遣ってくれたのだろうか? 都合の良い解釈かもしれない。けれど、そう思っても良いだろうか? 先程言われたことを思い出す。 そうだ。初詣もおみくじも、全くもって自分らしくない。ケイティの言う通りだ。 彼は……それこそ都合の良過ぎる解釈だが、思ったよりも自分の事を見てくれているのかもしれない。 自分の事を、理解してくれているのかもしれない。 思ったよりも、嫌われていないのかもしれない。 そう思うだけで頬が緩むのは何故だろう? 他人にどう思われようと関係ない。 そう思っていたはずなのに、嬉しいのは何故だろう? にやつく口元を手で隠しながら行列に戻ろうとすると、ケイティに止められた。 なんでも、また最後尾からやり直すのだそうだ。 それと、おみくじはどうするのかと聞いてきたので「もう良い」と答えた。 初詣もおみくじも、もう良い。 別にお参りや占いがしたくて来たのではない。 思い込みかもしれないが、弟の心の内を多少は理解できたのだ。 今回の作戦の目的は果たしたと言えるだろう。 駐車場に向かう途中、露店が出ていたので少し覗いてみる事にした。 「何でも好きな物を食べなさい」 と言うと、ケイティは困った顔をした。 もちろん知宏は初めてだったが、彼も来たことがないのかもしれない。 まずは自分が何か選んであげよう。 そう思い一番近くにあった店で綿菓子を二袋購入した。 ケイティは怪訝な顔をしたが大人しく受け取りモソモソと食べ始めた。 甘い物を食べたら当然辛いものが欲しくなる。 次は大玉たこ焼きを一パックずつ食べ、また甘い物が食べたくなり鯛焼き屋へと移る。 そして焼そば、チュロス、イカ焼き、りんご飴、ジャガバタと食べ歩く。 初めて食べた物ばかりだったが意外と美味かった。 そうこうしているうちに雪が降り始めた。 「……綺麗ですね」 ケイティが空を見上げて独り言のように呟いた。 雪なんて仕事人間の知宏にとっては迷惑でしかない現象だったが、なるほど、こうして仕事から離れてみると、雪とは本来そういうものなのかもしれない。 「あぁ、綺麗だな」 知宏が同意するとケイティは一瞬驚いた顔をしたが、微かに笑みを浮かべた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加