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知宏 side
愛情というのは、伝わらないものだな。
いつどういう話の流れだか忘れたが、知宏は以前そんな事を呟いた事がある。
それを聞いた年の離れた異母弟・義和は、『兄ちゃんの愛情はズレてるからなぁ』としみじみ言っていた。『複雑過ぎて何かよく分からない』とも。
ズレてると言われても、人にはそれぞれ愛し方というものがある。単純だったり複雑だったり色々だ。
それもまた個性。家族の愛などは特にだ。
その時はそう思って深く考えなかったが、今になってその弟の言葉が鋭く胸に突き刺さるようになった。
知宏には弟が二人いる。
一人は義和。
所謂愛人の子で異母弟になるわけだが、年が離れているせいか義和本人の性格のせいか、確執なども無くそれなりに仲良くしている。
もう一人はケイティ。
知宏の父親が海外出張の際に現地の女性とやらかした『アバンチュール』の末に生まれた子だ。
彼は十数年前に日本に連れてこられて以来、社長である知宏の右腕として働いている。
仲が悪い訳ではない。
愛人の子だから、外国人とのハーフだから、などというのは些細な事だ。知宏はそれを気にするような器でも性格でも年でもない。
義和もケイティも、大事な弟だと思っているし愛している。
けれど、どうやらそれは一方通行だったようだ。
知宏の愛情は、伝わっていないどころか理解すらされていなかったのだ。
「兄ちゃん。俺達の事、弟だと思ってないよね。兄ちゃんはさ、格好良いし頭良いし仕事出来るし凄い人だって尊敬してるけど、兄ちゃんのこういう所、残酷だと思う。無意識だろうけど、いつだって人を利用する事しか考えてないんだね」
ある時、義和にそう言われてしまった。
自分では愛しているつもりだった。
自分なりに、愛していたのだ。
でも二人からは、そうは見えなかった。
何故なら「ズレている」から。
どこが?
何が?
どんな風に?
分からないまま悩みながら、この一年足らずあれやこれやと行動に移してみるも、やはりどこか伝わっていない気がしていた。
諦めてしまおうか。
今までそれで何か問題があったわけじゃない。
そう思いかけたが、奇しくも今は冬真っ盛り。あと数日で年が明ける。
来年こそは。
次こそは。
初心に帰り決意を新たに、知宏は新年一発目の記念すべき作戦を立て始めたのだった。
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