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義和 side
「「兄弟仲良し大作戦?」」
12月末日、桐島財閥メインビル社長室。
アラサー男が二人、キョトン顔でハモって振り返った。
知宏の直属の部下・桂木と秘書・野々村は、ソファでふんぞり返る男を怪訝な顔で見つめる。
桐島義和。
社長の弟であり、彼自身も桐島グループ傘下の会社を経営する若き実業家だ。
「正確には、『知宏兄ちゃんがケイ兄と仲良くなる為の作戦』ね。あの二人の関係ってさ、何かこう……何?なんつーの?何か……その、微妙じゃん?仲が悪い訳じゃないんだけど何か……微妙じゃん?」
歯になにか挟まったような物言いだったが、付き合いの長い野々村と桂木は納得したようだった。
長男・知宏と次男・ケイティが「仲良くない」のは今に始まった事ではなく、10年以上前からだ。
本人達も特に気にしている様子もなかったはずだが……
「まぁ分かりますけど、今更過ぎませんか?何故急に?」
「急じゃないよ。兄ちゃんてば、ケイ兄と仲良くしようと一年位アレコレやってたんだけどさ〜、尽く空振りっつーか空回りっつーか独り相撲?」
「全然そんな感じしませんでしたけど?」
「そうなんだよね〜。兄ちゃんのやってる事って何か的外れで分かりにくいんだよね。だからケイ兄も全然気付かなくてさ、まぁケイ兄もあの通り天然だし。最初はあまりのすれ違いっぷりに笑いが止まらなかったんだけど、何か見てたら可哀想になってきてさ〜」
野々村も桂木も、知宏のそんな様子に全く気付いていなかったのだが、何となく分かるような気がした。彼は仕事以外の事ではあり得ない位の不器用さと非常識さを誇っているのだ。
人としてヤバいレベルで。
「でね、兄ちゃんの恋人の時子さんに相談したら『私に任せて』って凄いやる気満々でさ。来年は絶対あの二人を仲直りさせてみせる!って張り切ってんの。ね、面白そうじゃない?時子さんのアドバイスで多少は成果が出ると良いよね」
ワクワク顔で寛ぎながら茶菓子を頬張り茶をすする義和。
野々村と桂木は、この能天気な三男坊を前に顔を見合わせ溜息をついた。
確かに面白そうだ。
あの二人が仲良くしている姿など、コントより面白いに違いない。
しかし、ある意味あの二人は『コミュ障』のようなものなのだ。
野々村と桂木は、『兄弟仲良し大作戦』に巻き込まれるであろう自分達の新年に、面倒臭さと不安しか感じられなかった。
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