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義和 side
2021年大晦日……否、もう日付が変わって2022年元旦の、草木も眠る丑三つ時。
もちろん人間の義和も眠る丑三つ時。
突然、爆音が鳴り響いた。
「うぉ?!な、何?敵襲?!」
軍隊行進曲を設定していたせいか、義和は寝惚けたリアクションで飛び起きた。
ブルブルと震えながら叫び続けるスマホを手に取ると、そこには「兄ちゃん」の文字。
この非常識極まりない着信は、知宏からだった。
「……もしもし?今何時だと思ってんの?」
『何だ、お前の部屋には時計もないのか?今は……』
「そうじゃねぇよ!もういい。要件は?」
『初詣に行く』
「……どうぞ」
「行こう」ではなく「行く」だったので「勝手にしやがれ」と思い速攻切ろうとしたが、話に続きがあるらしい。
自信家な兄らしくなく、ボソボソと何か言っている。
「何?」
『……ケイティなんだが』
知宏が彼の事で連絡してくるとは珍しい。
ケイティに何かあったのかと思い、一応話を聞いてみる。
「……ケイ兄がどうしたの?」
『あいつは、初詣に行ったことがあるか?』
「は?……いや、知らねぇけど。あるんじゃねぇの?もう十何年も日本に住んでんじゃん。何で?」
『いや、もし初めてなら兄として色々教えてやらねばと思っていたのだが、その、実はな、俺も行ったことがなくて困っていたのだ。でも初めてじゃないなら大丈夫だな』
ははは、と爽やかに笑う兄だったが、義和は話に違和感を覚えた。
「え、何、もしかして二人一緒に行くの?」
『あぁ!』
勢い良く答える知宏に、義和は眠気が吹っ飛んだ。
初詣
何て似合わない言葉だろう。
基本、他人を信じない兄が。人に何かを「頼む」という事を知らない兄が、初詣。
ケイティが混乱する様が容易に想像できて笑いが込み上げた。
「ふふ……よくOKしたね、ケイ兄」
『今から言う』
「遅っ。つーか寝てるでしょ。朝にしてあげたら?」
『俺もケイティもまだ仕事中だ。隣の部屋にいる』
「……だったら俺にかけてくんな!直接聞け!」
思わずキレて携帯を放り投げた義和だったが、知宏とケイティが初詣に出かける様を想像したら予想外に面白かった。
これは時子立案の「兄弟仲良し大作戦」に違いない。朝になったら桂木と野々村に教えてあげよう。
楽しい新年の始まりだ。
そうほくそ笑み、義和は再びベッドに潜り込んだ。
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