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知宏 side
桐島財閥の若き天才リーダー、桐島 知宏。
彼は生まれながらのエリートだった。
そうなるべくして生まれ、そうなるよう育てられ、そのために必要なもの以外は全て切り捨ててきた。
まるで絵に描いたような金持ちエリートの道。
それに一切の疑問も持たずひたすら邁進し、現在の地位・財力・権力などその他諸々を手中に収めた。
そんな彼が今……大晦日の21時過ぎ、仕事そっちのけで頭を抱えて分かりやすく悩んでいた。
恋人の時子から「兄弟仲良し大作戦に協力する」という有難い申し出があり、先程まで電話でウキウキと話し合っていたのだが……何故か口論に発展してしまったのだ。
彼女に、今年(2021年)の戦歴を聞かれ、
「喫茶店に行こう、の巻」
「怪奇、100本のバラ騒動」
「イタリアントマトが飛んだ日」
「りんご酒ブシャー!事件」
「戻らない手紙……夏」
「回って壊れて直った話」
etc……(全敗)
と伝えると、時子は「それ以前にケイティと仕事以外の会話をした事があるのか」と聞いてきた。
社長と副社長という関係上、普段の会話は殆ど……否、全てが仕事の話だった。
「ある訳がない」と答えると、何故か時子はブチ切れ、「来年こそは兄弟らしくしないと婚約破棄する」と言い捨て電話もブチ切られた。
何故だ……
そもそも「兄弟らしく」というのが分からない。「らしい」も「らしくない」もない。兄弟は兄弟じゃないか。
兄弟らしくするにはどうすべきか、頭を抱え悩み始めて数時間。年が明けると同時に時子からメールが来た。
言い過ぎたと言う謝罪、そして新年の挨拶と共に、「二人で初詣に行ってはどうか」と書かれていた。
何だか分からないが時子が言うのならそうしよう。
そう決意したのは良いが、実は初詣など行った事がない知宏は、慌てて調べて初詣に関する情報を頭に叩き込んだ。
そして数時間後、ふと、ケイティは初詣に行った事があるのかと疑問に思い、その情報も得るべく、深夜にも関わらず義和に電話をかけた。
義和によると、どうやらケイティは初詣経験者らしい。
これなら問題はない。
準備万端整ったところで、知宏は隣の部屋で仕事をしている弟の所へ乗り込んだ。
そこから元旦の夜までの一連の出来事を、義和は「初詣の変」と名付けた。
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