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ケイティ side
桐島財閥メインビルの社長室の隣。
桐島家次男・ケイティは、大晦日の深夜(元旦の朝とも言う)にも関わらず仕事をしていた。
「仕事」とは言ってもするべき仕事はとうに終わっており、実際仕事らしい仕事はしていなかった。
では何をしているのか、と聞かれれば、「別に」と答えるしかあるまい。
何もすることはない。
ただ、帰るに帰れないだけなのだ。
原因は、上司で社長で兄でもある知宏だった。
21時を回った頃、帰り支度を済ませ隣の部屋の兄に挨拶をして帰ろうとしたら、中から何やらもめているような声が聞こえてきた。
他の人の声は聞こえないので電話しているのだろう。
仕事でトラブったのなら帰る訳にはいかない。
しばらく待つことにしたのだが、それが間違いだったようだ。
電話が終わっても兄は何の動きも見せず、秘書やケイティにも何も言わず、かと言って帰る様子もない。
コッソリ中を覗いたが、執務机で深刻な様子で頭を抱えて微動だにせず、声を掛けられらる雰囲気ではなかった。
こんなタイミングで「帰ります」等と言おうものなら……否、考えたくない。
そうこうしているうちに年は明け、特に何も起こらないまま数時間が経ち、もうクラッカー鳴らして新年の挨拶でもしてやろうかとヤケになり始めた頃、兄の声が聞こえてきた。また電話のようだが内容までは聞こえない。
壁にへばり付き耳を当てていると1分もしない内に通話が終わり、今度は足音が此方に近付いて来るのが聞こえ慌てて席に戻った。
ケイティが椅子に座った瞬間ノックもなしにバタンとドアが開き、
「初詣に行くぞ!」
と、知宏がニヒルに笑って高らかに宣言した。
「……は?」
意味が分からない。
否、初詣は知っている。
海外育ちではあるがそのくらいは一般常識の範囲だし、日本に来てからの十数年で何度も行っている。
分からないのは兄が何を考えているかだ。
「8時頃車を用意させるから着替えて待っていろ。それまで少し仮眠をとっておけよ」
混乱したまま何も言えずにいるケイティを無視し、知宏は勝手に決めて命令をし颯爽と出て行った。
これは何かの罠か?
それともドッキリか?
はたまた誰かの陰謀か?
それとも……
実は夢オチ、という淡い希望を持って、ケイティは素直に命令通りに仮眠を取るべく社内の仮眠室へ向かった。
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