お金の価値

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母はいつもお弁当を持たせてくれていた。 こんな事しか出来ないからと。 今日はネックレス事件がありお弁当どころではなかったんだろう。 朝ごはんも無かったくらいだったのだから。 お昼休憩になり、私はこんな時の為に買い置きしているカップ麺にお湯を注いで、デスクに戻ってきた。 「璃子ちゃん、昨日亨くんと車乗ってなかった?」 話しかけてきたのは、右斜め前に座っている、4個上の先輩で伊藤さん、女性のグラフィックデザイナー。 皆んなお昼は各自、自分のデスクでとる。 「伊藤さん、亨くんご存知なんですか?」 「ここら辺の私ら世代で亨くん知らない人いないでしょ。璃子ちゃんも関中?」 「はい。」 「璃子ちゃん、やっぱりブイブイ言わせてたんだ。だから今日首にハンカチ巻いてるわけね。」 「違います。亨くんは私の友達の彼氏だっただけです。」 「そのハンカチは?」 「これは…あー…ダニに噛まれました。家古くて。」 「えっ、あはははっ。ダニって。璃子ちゃん面白いね。」 「あはははっ。」 「で?亨くんとは何してたの?」 「あー…実は母親が情緒不安定で、相談に乗ってもらってたんです。亨くんとご近所さんなんです。」 「え?お母さん?」 「はい。離婚のショックが大きくてまだ立ち直れないみたいで。」 「璃子ちゃんは大丈夫なの?」 「私は落ち込んでられないですから。働かないと。お金ないんで。」 「そんなに大変な事になってたの?なんで今まで言ってくれなかったの?」 「あははっありがとうございます。」 「璃子ちゃん、明るいから全く気付かなかった。なんかあったら言ってね。」 「はい。伊藤さん頼りにしてます。色々教えてください。」 それから伊藤さんは何かと気にかけてくれて、優しくしてくれた。 他の皆さんも私がお金に困っていると知り、何かと差し入れをしてくれるようになった。
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