エチュード

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付き合って1年半の彼氏、忽那礼央(くつなれお)は同い年。 大学生でいわゆるお坊ちゃん。 小さな頭と端正な顔立ちとスマートな立ち振る舞い。 180cmに60kgというモデル体型に、いつもシンプルなデザインのギャルソンを身に纏って、穏やかな性格。 欠点といえばいまだに朝が苦手で、私にだけ甘えん坊なところだけ。 勉強は本を一読しただけで、講義を聞いただけで軽く頭に入ってしまうし、ピアノについてはかなりの腕前だ。 そんな彼はいまだに私にだけ甘い。 私も彼だけに甘いから、周りからはもう何周か回って放置されている。 「なんでお兄さんのところに住むの?もう一緒に暮らそうよ?璃子ちゃんは僕と一緒にいたくないの?」 会う度に彼は私に不満をぶつけてくる。 大概、他人からは惚気に聞こえるだろうが。 「そういう訳にはいかないよ。お金は?礼央くんのご両親に私を援助してもらう理由ないもん。」 「婚約してるし、なんならもう婚姻届だそうよ。ならいいでしょ。」 「婚約は私達の間だけの話でしょ?、あははっ、お金は?」 「僕、起業する。考えてることあるんだ。」 「資金は親?それでいいの?」 「璃子ちゃんてたまに意地悪なこと言うよね。」 「うん。大切なことだから、大切な人には言いたいの。」 「うーん。困ったなぁ。」 礼央くんは全然困って無さそうに上を向いて、紅茶の入ったカップを口にする。 ここのホテルのアフタヌーンティーセットは3500円。 今まで何とも思わなかった3,500円が既に大金に感じる程、私はお金にシビアな生活をしている。 きっと今日も礼央くんがカードを出す。 今までならなんとも思わずに払ってもらっていたけれど、今は価値観が一変した。 毎回奢ってもらうわけにはいかない。 3500円という金額さえあれば、例えば私は1週間のランチ代になる。 3,500円の価値が私の中で変わってしまったのだ。
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