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自分の人生は自分で切り開く。
当てがない訳ではない。
私は自分でも思うが度胸だけはある。
母の兄にあたる叔父さんに相談して、叔父さんの友人のデザイン事務所に口を訊いてもらい就職が決まった。
こんなことでもなければ出来なかったことに挑戦してみようと思ったのだ。
朝8:30から夕方5:30まで
まずは事務員兼研修として。
車の免許も急いで取得して、貯金していたお金で車を買ったら見事にすっからかんになって少し後悔したけど、どうしてもビートルに乗りたかったから大切に乗ろうと決めた。
20歳で母と一緒にまたおばあちゃんの家で暮らすことになろうとは。
ここは中学生のころ10ヶ月住んだ家。
今おばあちゃんは移動出来ない程弱っていてもう私の事も認識出来ない状態にある。
おばあちゃんは都内の施設。
母と私はこの母の実家のおばあちゃんの家で暮らす。
私の新しい生活が始まったのだった。
ーーーーーーー
母は私の就職を泣いて否定し続けた。
それでもこれからの私に必要なものはお金だ。
デザイン事務所は社長と従業員私合わせても9人のこじんまりした会社。
家から車で15分。
田舎だから車通勤出来るのは有り難い。
まずは雑用なんでも率先してやった。
朝は1番に会社について、掃除から始めた。
コネ入社によく思わない人もいたし、それにはまず私が答えなければと考えたからだ。
窓を開けて空気の入れ替え、拭き掃除、トイレ掃除、コーヒーメーカーの準備、玄関まわりと、サッと掃除機をかけて、最低でも40分はかかる。
終わる頃に、先輩の男性社員、横山さんがまず出社してくる。
朝から背筋ピン、髪型バッチリ、お洒落な服、ちなみに車はボルボ。
「おはようございますっ。」
「………………………おはよ。」
反応が遅くて、途中でズッコケそうになる。
暗いわけではない、愛想がないのだ。
だが、顔はいい。
腕もいい。
この会社のエースだ。
「横山さん、どうぞ。」
デスクに入れたての珈琲を置くと
「……ん。ありがとう。」と少し微笑む。
「横山さん、今日も午後から外ですか?」
「……うん。」
「今日夕方から雨降るって言ってたから傘持って行ってくださいね。」
「……車だから要らない。」
「えっ、あ、そうなんですか?すみません余計なこと言ってしまって。」
私は恥ずかしくなり回れ右して掃除の続きに取り掛かろうとした。
「……傘、ないし。」
横山さんがボソッと呟くように言った。
「えっ?傘ないんですか?」
私はデスクの引き出しから折り畳み傘を出して横山さんのデスクの上に置いた。
「これ使ってください。私は車に傘あるから大丈夫なんで。」
今度こそ回れ右したら、後ろからクスッと笑い声がした。
「このピンクの花柄の傘を俺にさせと?」
「丁度いいじゃないですか。横山さん晴れでも雨みたいに暗いから。雨ならピンクがピッタリですよ。あはははっ。」
「……おいっ。」
「すみません。」
「おはよーーっ。」
次に来るのは橋本さん。
そして次々と出社してくる。
また忙しい1日が始まる。
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