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《別記》 アイ(I)は勝つ
大森 護となったララに、彼女の自宅を整えてもらうためにひとまず帰ってもらった。 兄弟水入らずで話したかったからだ。
シドと目が合うと、お互いにふぅっとため息を吐き出した。
「あぁあ……やっぱりカッコ、つけすぎたかなぁ……」
『本当だよ! 呪術云々は、学びさえすれば俺でも出来るはずだ。 要は対価がキツいんだから』
シドの言うとおりだ。 ララには黙っておいて、ララの魂を供物に捧げてしまうのが、実は一番手っ取り早かった。
「……見知った相手を、生贄に捧げることなんて。 出来るかお前?」
『……兄ちゃんの帰還を、民が待ってる……ってこと、分かってる?』
たった一人の犠牲にて、森の民は大混乱を免れることが出来る……しかし、たった一人の命を軽んじていいものか。 それが大魔王べノーラが転生した魂だとしても。
「俺が……そんな、人を騙すようなことするなんて。 微塵も思ってないくせに」
『……まあ……そうなんだけどね。 むしろ、兄ちゃんが本気でそういうことするなら。 多分俺、なんだかんだで止めてる』
シドは、あーあ、と大袈裟に嘆いてみせた。 さすが、我が弟は、本当によく分かってくれている。
「べノーラに襲われて、俺たちが死んだのはどれくらい前なんだ? 『事実改変』することなく、普通にシンフォレスに帰って皆がそれを受け入れられるくらいなのか? ……おそらくだけど、もう相当前なんじゃないのか……?」
『……もう、分かんないよ。時間感覚がなくなっちゃった……』
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