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アイ(哀)は克つ
―――シド……!
声が聞こえた、いや脳内再生された。 えぇえ、妄想力でそこまでいく? いや特筆すべきはそこだけではない。 再生されたちょっと切ないそのボイスは、どう考えても……マモちゃんの声だった。
脳内処理が追いつかないでいるとマモちゃんは、少年シドに目をやっていた。 どこか困ったような……それでいて否定的ではない顔。 マモ兄ちゃん、『受け』なのか……なんとも受け顔チックだった。
『……そっか、転生したんだよね、覚えてないよね……』
「……ごめん」
マモちゃんが低いトーンの声で、少年シドに謝った。 伏し目がちな顔がなんともそそる……いや、そうじゃなくって、え、マモちゃんはことごとく否定はしない。 それつまり……少年シドのいうことは正しい、ということか? えぇえ……。
『話すから聞いてよ。 俺と、兄ちゃんの話。 俺たちは、ここじゃない世界の……森の国『シンフォレス』の王とその弟だったんだ……』
異世界フォ―――!! ……いいぞ少年シド、君の話に私は全神経を集中させる……!
―――なんでも、木々が生い茂る美しい森の国『シンフォレス』は、ある日大混乱に陥ったらしい。 大魔王が現れたらしいのだ。 大魔王は実体を持たない精神体のような特異な身体をしていたらしい。
森の木々が、不気味でおどろおどろしいホラーのような枯れ木に塗り替えられた。 小鳥のさえずりが絶え、代わりに死霊が飛び交っているかのような不気味な音がどこからともなく聞こえてくるような……。
少年シド、国の名を名乗ることを許された彼はその正式な名を『シンフォレス・シド』といった。 年齢はまだ八歳、決して強い訳ではないけれど彼はいっぱしの魔法剣士だった。 愛国心の強い彼は、無鉄砲向こう見ずで単身にて大魔王に立ち向かったらしい。
彼の兄、十九歳のシンフォレスの王の目の前で。 シドはその命を散らしてしまった……。
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