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感謝
泣き止むまでの時間、
「今だからこその本音聞いときなよ」
笑顔の母さんに声を掛け、俺は部屋を出る事にした。
年季の入った襖には、俺が幼い頃に落書きした絵がそのままにしてある。
襖を静かに締めて縁側に出ると、綺麗な円の月。
落書きして親父に怒られた時の事を思い出す。
月も見ずに縁側で泣いていた俺に、
「大きくなってもちゃんと生きていけるように、っていつも考えてる。
お父さんはね、あなたの事が大好きなのよ」
そう言いながら母さんは俺の肩を抱き、
「そして、お母さんの事も大好きなのよ」
満月を見ながらフフフと笑った。
俺を笑わせる為に言ったのだろうが、本当の想いでもあったのだろうと今は思う。
胸の痛みが少し和らいだように感じる。
「これ以上親父を泣かせるわけにはいかないな」
月を見上げて誓う。
「『ありがとう』と感謝し、泣くのは俺の番。
親父より先に逝かない」
諦めるわけにはいかない。
ステージ4の肺癌を患っていようとも。
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