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響く
過疎化の進んだ村。
参列者の少ない葬儀を終え、仏壇の前にいるのは俺と親父だけ。
供物にあったワンカップの蓋を開けてちびりと呑み、
「勝手に死におって」
遺影に向かって愚痴垂れている。
「親父…… 」
俺の呼び掛けは聞こえないというように、
「お前はいつもそうじゃ。
儂の言うことはなーんも聞かんと…… 」
ちびりと酒を呑んでは、
「儂との約束はどうした?
約束も守れんような奴はもう知らん! 」
いつもは寡黙な親父が饒舌に文句ばかりを言う。
「いい加減に…… 」
亡くなったばかりの母さんの遺影の前。
俺の胸は苦しくなる。
「全くお前は…… 」
これ以上聞いていられない俺は、
「いい加減にしろよ!
これ以上母さんを悪く言うな! 」
母さんとありがとう親父の間に入り、緩められた黒いネクタイのある胸ぐらを掴み怒鳴った。
親父はそれを振り払い、残った酒をゴクゴクと呑み干し、
「儂より先に死なんと約束したじゃないか! 」
遺影を睨みつける。
ズキン、と胸が痛くなった。
「親父……
もういいじゃないか、許してやれよ」
親父は何も言わず、唇をワナワナと震わせている。
「……親父、もう本当に言いたい事言ったらいいんじゃないか? 」
その日初めて、俺の言葉に応える。
「今まで……
本当にありがとうなぁ」
親父は遺影に深々とお辞儀し、項垂れたまま部屋中に響き渡る声でおんおんと泣いた。
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