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プロローグ ~力尽きる~
「この生活、いつまで続くの?もう嫌だ・・・」
そう嘆いていたのは、本作の著者である林 俊幸である。
かつては仕事を務めていたのだが、うつ病を機に解雇され、生活保護を受給していたのだった。当然、多くのものを失い、自動車はもちろん、携帯電話すら強制解約され、連絡手段が途絶えてしまったのだった。あるものは神棚とパソコンと周辺機器、ネット環境と生活用品ぐらいしかなく。自転車すらなかった。
生活保護を受給して1年が経過した。毎日が億劫になり、ついには神社すら足を運べなくなるところまで疲弊していた。お金も底をつき、食料も底をつきかけていた。「もう餓死するのか・・・」と何度も想像していたほど、生活が苦しくなっていたのだった。
「今日もご飯はこれだけか・・・」
「トーシャサン、コレデハジェモシニソウデス」
隣でため息をついているのはフランスから来た龍神様だ。
毎日が死と隣り合わせの状態が続いていた。一時的に「ここで死んでも誰も悲しまないからいいや」と思い浮かんでいたほど深刻な状態だった。
WEB小説サイトに「龍から人になりました」を有料販売し、フェイスブックに広告を作って宣伝しても、なかなか人が集まらず、常に赤字だった。
「やっぱり、需要が無さ過ぎたか・・・」
WEB小説で毎年300冊ほど書籍が出るとはいえ、何10万という作品の中から人気小説の一部だけが書籍化されるという狭き門だった。それどころか「ノンフィクション」というジャンルから書籍化された本は未だに出ていないとか。
2021年3月5日、生活保護の受給日。
「今日はこれだけです。もう使えるお金はないと思ってください」
貰えた金額は、なんと8800円しかなかった。この時「これじゃ生活が成り立たない」と嘆いていた。
「仕方ないでしょ。ちゃんと生活に費用を充てないからこうなったから反省しなさい。あと、どうしようもなかったら入院でもするってこの前言っていたよね、どうしようもならなくなったら公衆電話でもいいからこっちに連絡ちょうだい」
職員から叱責の一言が飛び交った。もう何度も聞いたことか・・・心の傷が深まる中、顔を俯きながら市役所を後にして駅に向かう、残されたお金で、何かできないかを考えていた。
「ねぇ、急にどうしたの?保護費を貰ってすぐ新豊田駅に入って岡崎方面に向かうなんて、それに元気がないゾ。大丈夫カッ?」
慰めるかのように駅のホームに声が響き渡る。その声の正体は幼き金龍クオーレである。
ここで、自分のことについて説明する。
まず、幼い金龍クオーレについて語らなければならない。
金龍クオーレは自分が生まれる前からずっと守護している龍神様で、まだ幼いとはいえ、600年以上も生きている。とても遊びたがり屋で神社へ行くのが好きな龍神様である。最近では神様の前で舞を披露するようになり、ちょっと龍神様らしくないような行動もすることがある。いつも自分のことを「トーシャじーさん」と呼んでいる。
もうひとつ、クオーレには西洋型の龍神様の友達がいて、名前はそのまま「ドラゴン」という。大きな翼が生えているのはもちろん、大食漢を象徴するかのような大きなお腹を持ち、火を吹くことができる。西洋でいじめられて日本に逃げ込んだ際、九頭龍大神がいる戸隠山に辿り着いたときに偶然クオーレと出会い、そのまま仲良くなった。まだまだ日本語が不自由な点もあるが、自慢の部位である大きなお腹をうまく利用し、クオーレに腹枕をさせて寝かせ付けたり、腹太鼓演武を披露したり、時には神様を笑わせるような演技をしたりなど、最近芸能に注力している。運動は苦手なくせに、龍神相撲大会では何度も優勝していたりする。
そして自分は生まれつき「アスペルガー症候群」という発達障害を抱えていて、手帳の等級は「1級」と、特別障害者として扱われている。幼い頃はいじめられ、中学生に時代は女の子に嫌がらせをされ、それがトラウマとなって今も女性と付き合っていない。かつてはT教の信者で、用木として務めていたことがあった。しかし、途中で「自分のやりたいことは何だろう?」と思い、母親や教会長の言いなりの人生から飛び出して思いっきり神社に飛び込んでから人生が変わり始めた。母親に存在しない借金を返せという濡れ衣を着せられて障害年金2年分を奪われ、現在も多額の借金を背負っている。母親からもお金でいじめられていたのだ。
神社に飛び込み始めてから最初にお願いしたのは「正社員になりたいです」だった。その願いが通ったことによって、神社へ度々お参りするようになった。
途中で交通事故にも遭ったけど、そのおかげで念願の中古車を1台購入でき、全国の神社を回ることができたのだった。
何度も転びながらも、小野寺S一貴さんのイベント「ガガ祭り」に奇跡的に参加もできた。
そのおかげで、今は神道家となり、現在に至っている。
そして、一番の課題は「九頭龍大神の指導を全国に広めたまえ」という、一生をかけて行うものがある。これをクリアしない限り、輪廻転生から脱出できないと言われたのだった。現在も課題をクリアするまで、生涯を通じて九頭龍大神の課題に取り掛かっているのだ。
「なんか、著者は龍の生まれ変わりなのか?」と思われそうな雰囲気が読者の前に漂っているが、昨年夏に名古屋の栄にある占いの館千里眼へ行き、ある先生に霊感占いを依頼し、前世鑑定をしてもらったところ、本当に龍神様の生まれ変わりだったことが判明したのだ。
実は、龍の生まれ変わりだという話はこれだけでない。数年前に訪れた貴船神社の高龗(たかおかみ)様から「キミは龍の生まれ変わりだよ」という御神託を受け取っただけでなく、箱根九頭龍神社や戸隠神社九頭龍社に鎮座する九頭龍大神からも「汝は我の右腕を務めた凄腕の老龍だったのじゃ」と言われていたのだった。
そう、自分は本当に龍の生まれ変わりである。
で、龍神様時代だった頃の自分は「トーシャ」と名乗っていたそうだが、理由は分からない。
「お金・・・使い果たしてしまった・・・」
「ありゃ~、これはいかんナ。お金が枯渇してしまったカ~。トーシャじーさん、お金の使い方が疎かになりすぎだゾ」
人生が狂ったのは仕事を解雇された時だった。それ以降、自分が迷走をしているところをクオーレはずっと見ていたのだった。
「はぁ・・・その通りだよなぁ~。ごめんね、クオーレ・・・迷惑かけてしまって・・・」
「またやり直せるから気にしないでネ。それより、今からどこへ行くの?」
「八百富神社だ。その奥にある八大龍神社の龍神様に助けを求める」
「そうカァ~・・・なんかトーシャじーさんらしくないネ」
電車に乗り込み、蒲郡駅を目指す。
昼下がり、小雨が降る中、蒲郡駅に到着し、真っ先に八百富神社へと向かった。竹島にいる市杵島姫命と、その隣にある龍神様となる豊玉彦命に「助けてください」と縋るほど、いつもは「ありがとうございます」と伝えていたのに珍しくお願い事をしていた。
その時、市杵島姫命が放った言葉は「院長先生を頼りなさい」だった。
その後、豊玉彦命に「助けてください」と言った途端、こんなことを言い始めた。
「トーシャのじじい!困りごとか?それじゃ、ワシのお札を授かれい!」
「えっ!?ちょっと、持ち金はあと5000円だけですよ。そんなことしたら・・・」
「あぁん?文句あるのか?さっき院長に頼れと弁天様に言われただろ。それだったらワシが入院した時のお手伝いをしたるわい!さっさとお札を授かれい!」
ということで、渋々八大龍神社の神札を授かることにした。が、これで終わらなかった。
2日後、豊玉彦命という龍神様から「尾西の若龍の神札を授かれ」と言われた。この時の持ち金は3500円ぐらいしかなかった。
少しでも節約するために、計算しながら若宮神明社と白金龍王社の最寄り駅である奥町駅までの往復料金を捻出し、神札を授かることができるかわからない状態のまま昼に一宮市へと向かう。
上挙母駅に入り、時間ギリギリで知立行きの電車に乗り込めたため、少し余裕を持って到着することができた。この時、心の中で「もうどうなってもいい!龍神様に言われるがまま動いてやる」と決めていた。
「トーシャじーさん・・・」
「心配するな、クオーレ。豊玉彦命に任せておけば大丈夫だ。今はそっとしておいてくれ。でもな、これが今季最後の神旅かもしれん・・・」
「・・・・・」
この一言で、クオーレは黙ってしまった。
電車を乗り継ぎ、奥町駅に到着。時間は14時手前とまあまあいい時間に到着できた。しかし、クオーレがあることに気づく。
「そういえばトーシャじーさん、ご飯食べていないネ。大丈夫?」
気が付いたら朝飯以降何も食べておらず、すっかりと腹を空かせていたことに全然気づかなかった。この様子を見たクオーレが心配していた。
「だ、大丈夫だ。とりあえずお札を頂こう。飯はその後だ」
と強がる姿勢を見せてなんとか安心させるしかなかった。
歩くこと15分、若宮神明社に到着。しっかりと天照大神に挨拶し、奥にある白金龍王社にお参りした。
「どうされましたか?トーシャ様」
手を合わせたとき、いきなり豊玉彦命が割り込んできた。
「こいつを助けてやってくれ。ワシの力だけではどうにもできん。クオーレという金龍もいるがまだ幼すぎる。若き龍の力をくれ」
「ワダツミ様?なんでここにいるの?」
「トーシャのじじいがワシの神札をここに持ってきておる。だからここに来られるのじゃよ」
この時、八大龍神社の神札を手に持ちながらお参りしていた。そのため、豊玉彦命が目の前に立っている。
「力が尽きそうです。もう命を落とす直前まで人生が破綻してしまいました。ごめんなさい・・・九頭龍様の課題が残ったまま死ぬなんて・・・俺はもう」
「なっ!?これはいかん!すぐに助けてやる!九頭龍使いのトーシャがこんな中途半端な時期に死なれるとエライことになりそうだ!神札をすぐ授かれ!300円と値下げしておいたから安心するがね!」
なんと優しい龍神様だろう・・・そう思って白金龍王社の神札を頂き、お礼参拝をして若宮神明社を後にした。
問題は帰りの電車だ。なんと1時間に2本しか来ないため、1本逃すと30分待つ羽目になる。
駅に向かう直前に踏切が閉まり、「どっち方面だ?」と思った時、来た方向がなんと帰りに向かう方向の電車だった。
「うわぁマジか~これじゃあ間に合わない!やられた~」
次の電車が来るまで30分後と考えると、1駅分歩いても次の駅の乗車に間に合ってしまう。丁度節約もできるので、頑張って歩くことにした。しかし、ここまで何も食べていない。
白金龍王社の神札を頂いたのだが、気配を感じない。いるのはクオーレと豊玉彦命だけだった。白金龍王はどこへ行ってしまったのだろうか?
隣駅の開明まで歩き、途中にあったコンピニでパンを購入して食べる。長い空腹時間もひとまず落ち着いた。
「はぁ~しんどい・・・こんなにも長かったなんて、よく歩いたなぁ。しかし、次は西一宮、その次が名鉄一宮駅と考えるとなんか歩いて行けそうな気がする」
「こいつ・・・あれだけエネルギーを使い果たしているのにまだこんなにも余力があったとは」
「ん?どうした豊玉彦様?」
「あっ!いや・・・な、何でもない」
近くにあった神社で休憩し、一気に名鉄一宮駅を目指す。
この時、一瞬何かが思い浮かんだ。
「そう言えば一宮駅近くに尾張国一之宮の真清田神社があったな。最近行っていなかったから久しぶりに挨拶でもしようか」
駅に到着した時にはもう17時を過ぎていた。一応24時間参拝可能だが、拝殿は閉まっている時間帯だ。
駅を素通りし、一旦真清田神社に立ち寄る。この時、自分に「エネルギーがまだこんなにあったなんて・・・」と実感していた。
真清田神社にお参りしたとき、御神託は「龍のついた神札を全部病室に持ち込んで入院しなさい。それ以外のお札は自宅に置いて、結界を張るようにしなさい」だった。「龍以外のお札を家に置いて結界を張る」ってどういうこと?と思ったが、確かに力が尽きかけている自分にとってその指示は合っているかもしれない。
真清田神社を後にして、名鉄一宮駅から帰路につく。これが入院前最後の神社参拝となった。
上挙母駅に到着した時はもうすでに夜中だった。スーパーでお酒と刺身を購入し、最後の晩餐と言わんばかりに夜を過ごす。
「この先、俺はどうやって生き残ればいいのだろうか・・・?」
そう口をこぼしたとき、クオーレが「大丈夫だゾ」と励ましてくれる。
「オイラだけじゃないって。ドラゴンはもちろん、いろんな龍神様がトーシャじーさんを守ってくれるじゃないカッ。多分だけど、エネルギーの充填が必要な時期に突入したと思うゾ」
「エネルギーの補充か・・・いいよな。クオーレとドラゴンはエネルギー体で。俺なんか肉体を持っている関係でエネルギーがどんな感じで働いているのかイマイチ実感がつかめないよ。もし宇宙とエネルギーをうまく使いこなせたら、みんな幸せになれるんじゃないかな?」
刺身を食べながら、酔った勢いでクオーレに話をする。
「宇宙とエネルギーカァ~・・・それをオイラが語れとでも?」
「そうだよ。アンタ、いくら幼いとはいえ、現役の龍神様だろ。600年以上も生きていれば大体わかるでしょ」
事実、クオーレのほうが長生きしているのは本当だ。龍の1年は人にとって120年分と言われている。
この一言で、クオーレは「トーシャじーさんのほうが分かっているのに」と思ったそうだ。
「え~?トーシャじーさんは60歳まで生きていたでしょ。十和田湖の青龍さんと同じ年齢なのに、エネルギーについて語れないのはどうしてなのカッ?」
「仕方ないでしょ。人という形代に入れてくれた時に龍の記憶がほとんど吹き飛んでしまったからな。今は取り戻しつつあるけど、それでもまだほんの一部しか思い出せていない」
魂は忘れん坊であることをクオーレに教えたところで、クオーレに宇宙とエネルギーについて話してくれないかおねだりする。
「しょうがないネェ~。ま、それは入院してからにしようゼ」
こうして最後の晩餐を楽しんだ。
3月10日。この日に精神病院へ任意入院する。正直、ここまで持ったのは奇跡といえるほど疲弊していた。
精神病院には「強制入院」と「任意入院」の2種類が存在し、病院の判断で強制入院を受けた患者は実質退院不可となる。しかし、自分から入ると申し出た場合は任意入院となり、退院したいと申し出ることでいつでも退院が可能となる。ただし、医師の判断によっては退院が伸びることがあるが、基本的に任意入院の患者は退院が可能である。
一度ツイッターとブログ活動、執筆を休止することを伝え、盗難防止のためパソコンセットと貴重品、着替えを持って病院へと向かう。
1時間半かけて病院に向かって歩き、院長先生と入院の手続きを行った。その時に、パソコンセットが一旦没収となった。
「はぁ・・・これじゃ何も書けない・・・」
残されたものは、着替えと、真清田神社の御神託通りに持ち込んだ龍の名が付いた神札、貴重品類だけだった。
入室した部屋はまるで刑務所のような独房で、コロナウイルスのPCR検査が2回とも陰性が出ない限り、部屋から一切出られないのだった。おまけに病棟の一階だったため、このままでは龍神様が部屋に入ってこられない。
お札を並べた後、古い名刺の裏に「雲」と書き、天井に張り付けた。これで龍神様が降りてこられるようになる。
任意入院とはいえ、退院時期が未定となっており、入院費は生活保護によってかからなくなっているものの、その間の家賃は当然払わなくてはならないうえに、生活保護の基準額が下がるため、1円たりとも使えない生活がずっと続くのだ。そのため、本来なら約束するはずだった福祉課の職員と会う約束だったのだが、恐怖心で足がすくみ、午後まで動けなかった。
「さて、準備完了。これから俺はどうなってしまうのだろうか?」
まもなく、長い入院生活と同時に、宇宙とエネルギーの長いお話が始まるのであった。
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