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2. 2か月前
それは、藪から棒という表現ではあまりにも生優しすぎる、突然の知らせだった。新マネージャーの村井さんからの発言に、俺たち4人は、ただただ驚き身を固めることしか出来ない。
「だから、お願いです!! 復活ライブをしてください!! 社長からのお願いなんです!!」
活動時、俺たちのマネージャーを勤めていた同志は、2年前勇退していった。社長も変わって大分方向性が変わったとは聞いていたけれど、この会社は秀太がいる頃からずっと所属していたし、面倒事がない限りは移籍しない方向で考えていた。それなのに、こんな事態になろうとは。
「……そういえば、この会社は今結構危ない状態なんだって? だから、俺たちに活動再開してもらって、一時的に収益を確保しようとかそういうこと?」
そう、サイドギター担当の文屋徹が、何の遠慮もなしに単刀直入に切り出した。
「いや、そう言ってしまえば、そうなんですけど……とりあえず、社長がそういう方針なので……」
「そんなこと言われたって、一体どうやってやるってんだ」
ドラム担当の荒木勝が、そうふんぞり返りながら声を荒げるように言う。
「加賀がいなけりゃボーカルもいねえし、今更加賀以外の新しいやつ迎えてやれって言うのか? それとも、楽器隊だけでやれとでも? 仲のいいやつのフェスに誘われるなら話は別だけど、ワンマンなんていよいよ無茶ぶりにも程があるぜ」
「まあ、二人とも落ち着けよ。村井さんも、考えなしにこんな話をしに来たんじゃないんだろうし、とりあえずは話を聞こうぜ」
リードギター担当の辻人志は至って冷静だった。そんな彼の言葉に、村井さんは分かりやすくホッとしたように肩を下げる。
「ありがとうございます。辻さんの言うとおりです。僕も社長も、何も皆さんだけでライブをやってほしいと言っているわけではありません。それ相応の準備をしてきたんです」
「準備?」
俺たちが怪訝に思っている間に、村井さんは一台のノートパソコンを取り出し、俺らに向け画面を向ける。そこには、一つのアプリが立ち上がっていた。
「なんだ? これ」
「まあ、とりあえず聴いてみてください。再生しますから」
再生? 何を? そんなことを疑問に思っている暇もなく、突如部屋中に、とある歌声が流れ始めた。その途端、皆の目が、信じられないかのように少し見開かれたのが分かった。無論、俺もそうだった。
歌声は、聞き間違えるはずのない、あの秀太の歌声だったのだ。けれど、違う。これは秀太の歌じゃない。そんなわけがない。だって、秀太はこんな曲、歌っていない。もしかしたら歌ったことがあるのかもしれないけれど、少なくとも、そんなものが録音されている事実を、俺は把握していなかった。
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