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「お、おい、なんなんだよこれ!」
勝がそう動揺したように声を出し、そこでようやく、村井さんが事の真相を話してくれる。
「これは、加賀さんの歌声を学習させたAIです。息遣いや抑揚、癖なども含めて全て、忠実に再現させたつもりです」
「なんだって……!?」
改めて、パソコンから流れる歌声に耳を傾けてみる。この歌声は機械によるものなんだと、そう色眼鏡をつけて。それなのに、悔しいくらいに、秀太の歌声にしか聞こえない。まるで、秀太が歌っているかのようにしか。こんな情けない話、あっていいのだろうか。
「ちょっと待ってくれ。この会社は大赤字なんだろ? なのに、どうしてこんな技術を導入できたんだ。それに、この技術って、元は他社のものじゃ……」
徹の問いに、村井さんは力強くうなずく。
「ええ、これは、我が社の社運を全て捧げた傑作です。これさえあれば、加賀さんの歌も補える。新しい曲だって、メロディーと音程を入力さえすれば、そっくりそのまま歌わせることができます。これなら、復活ライブもできるはずです」
「お前、ふざけるのもいい加減にしろよ!!」
そう、気づいたら憤りで立ち上がっていた。村井さんが、腰を抜かすように、俺を見てビビり倒す。
「何が傑作だ!! こんなの、秀太のことを冒涜してるようなもんじゃねえか!! あいつの歌声はなあ、そう簡単に複製されていいもんじゃねえし、あいつが歌うからこそ価値があったんだよ!! 肉声じゃないあいつの歌声なんて、加賀秀太の歌じゃねえ!! 俺はぜってえ認めねえぞ!!」
「おい直也! 落ち着けって!!」
そう勝に無理やり抑え込まれ、俺は再び席に着かざるを得ない。村井さんは、怯えたように肩をすくめながらも、それでもはっきりと告げる。
「そ、そんなこと言われましても、もうこんなご時世で、そんなことを言っている場合でもないでしょう! じゃあ、CDで複製された加賀さんの歌は、加賀さんの歌じゃないというんですか!? オンラインライブをやっている方たちは? 彼らのライブを配信で聴く人たちは、彼らの偽物の歌声を聴いているとでも言うんですか!?」
「そういう話じゃねえだろ!! 少なくとも、その機械は人間じゃねえ!! 秀太本人の歌声じゃねえのは明らかなんだよ!!」
「それは仕方ないでしょう!! 加賀さんはもうこの世にいないんだから!! 代替品で補うしか他ないんですよ!!」
「だから、秀太の歌は何かで取って替えられるもんじゃねえって言ってんだよ!!」
「二人とも、一旦落ち着け!!」
そう、低くも重い声がこの場に響き渡った。人志が発したものだと分かったのは、事態を把握して数秒経った後だった。
「村井さん、俺たちに時間をくれ。村井さんの気持ちも分かるが、そう簡単に受け入れられる問題でもねえんだ。4人だけで、話をさせてくれないか」
村井さんは、若干顔面を蒼白にさせながらも、こくりと頷いた。そうして、一人部屋を出て行った。
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