4. 真相

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4. 真相

 ライブ終わり、俺は自分の立ち上げたレーベルで昔面倒を見ていたバンドのメンバー、陽介(ようすけ)礼司(れいじ)が見に来ていると知って、楽屋に呼び出していた。二人はかなり腰を低くしながらも、いそいそとこちらへやって来る。 「直也さん、お疲れ様です!」 「おう。……どうだった? 今日のライブ」 「どうって……最高だったに決まってるじゃないですか! こんな熱い経験、もう二度とできないってくらいでした!」 「おいおい、それはお前らのバンドで経験しろよ。それよりも、新曲の話だよ」  その言葉に、二人はお互いに一瞬顔を見合わせつつ、礼司がこちらを向き、一言言った。 「……新曲が作れないっていうのは、歌のメロディーを、加賀さんが考えていたからでしょう?」 「……ああ、そうだよ」  そう、あの話し合いの後、皆で曲を作ろうとした日のこと。今まで通り、人志が適当にリフを作り始めて、それに乗っかる形で、俺たちもそれぞれ楽器を演奏し始めた。けれど、すぐに違和感に気付いた。いつも真っ先に乗っかって来るはずの男が、歌声が無かったのだ。  秀太はいつも、人志がギターを弾き始めると、勝手にメロディーをつけて歌っていた。だから結局、そのメロディーに合わせる形で、毎回曲を完成させていた。歌詞も全部秀太が書いていた。あいつが書く、繊細だけれど生命力あふれる歌詞が、俺は大好きだった。  だからこそ、思った。例えAIが代わりに歌ってくれたとしても、俺たちに新曲は作れない。AIがどれだけ完璧に秀太の歌声を再現しようと、あのAIには、メロディーを作ることも、ましてや歌詞を書くことはできない。加賀秀太というボーカルを再現するなら完璧かもしれないけれど、少なくとも、"independent" のライブを再現することはできない。そう実感した。 「そうだったんですね……。そんな経緯が……」  陽介はそううつむいた。けれど、再び顔をあげると、俺に告げた。 「……けど俺、『Re:lost』、加賀さんも歌ってくれてると思いました。最早、あの曲のメロディーがどんなかなんてわからないけれど、それでも、あのステージで、加賀さんが歌っている気がしたんです。やっと新しい曲が歌えるって、意気揚々とした感じで」 「……そうか」 「だから、またやってくださいよ。復活ライブ」 「はは、またいつかな」  ライブを終えた今、前ほどはそこまでAIを否定的に思わなくなった。むしろ、あのAIが存在することで、加賀秀太という男の得難さが、より際立ったような気がする。きっと、村井さんだって、秀太の存在を根底から否定したかったわけじゃないんだ。むしろ、リスペクトの意を込めて、あのAIを作ったはずなんだ。  だから、あのAIだって、いつかは役に立つ日が来るのかもしれない。どんなに人力だけで何かを伝えていこうと、それには限界があるし、機械にしかできないこともあるのだろうから。  けれどせめて、俺たちが生きている間は、自分たちが、あいつを蘇らせてやろう。あいつがもう限界だって言ってきたって関係なく、何度だって、何回だって。  それまでは、いくらでも舞い戻ってやる。あいつの歌声を、皆が失わないためにも。  俺のエゴでしかないけれど、少なくとも、秀太も今の俺たちを見て、笑顔でいてくれたらいいなと思った。
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