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今まで貴族だから、ましてや公爵家の子女、婚約者としてなどと様々な教育を受けあらゆる制約を守ってきた。
その中で、どんな時でも感情を表に出さない訓練は、常に自分で自分を殺し続ける作業だったのだ。とはいえ薄暗い気持ちになっても「貴族として当然の常識」だと疑わなかった。
だからこそここまで素直に感情に任せて物を言い、涙し、表情を変えることの出来る自由な杏奈に気押され出た言葉であり、徐々に自身の焦りからくる気持ちを優先させてしまったことへの罪悪感だった。
何よりも偽りのない剥き出しの言葉は揺さぶられた。
だから少女もまた無意識に「自分はこれだけ頑張ったのに」、「こんな筈じゃなかった」という気持ちを。
杏奈へ傲慢に八つ当たりしていたのだと気付く。
目も合わせられなかった。
しかし、
「でもそう……まずそれでしょう!?」
《アンナ、あなた……》
ルアンナは察した。
杏奈が怒って泣いていたのは、それを悪びれもしない理不尽な台詞や態度からのものだったのだと。
それでは、あんまりだと。
刹那、ルアンナは音も立てず胸に手をあて、片足を引き膝を床に付けると頭を下げた。
《貴女を侮辱するようなことを言ったわ。そして私の身勝手ですべてを奪ってしまった……大変、申し訳ございません》
恵まれた容姿と家柄の少女が最上の謝罪をしている。杏奈は最低だと自負しつつも何かが救われた気がした。
暫し無言でいたがぽつりと言う。
「それで、詳しく聞かせてよ」
《……許して、くれるの?》
「許すも何も。私はもうルナさんとして生きるしかないじゃん」
困ったように笑うと、ルアンナも躊躇いがちに視線を向け同じように笑った。
「泣いて喚いたら、何かスッキリしちゃった……」
《アンナには気軽に接して欲しいわ。そして私が魔術にまで頼り成し遂げたかったことを、すべて話すわ……聞いてくれる?》
杏奈はゆっくりと息を吐き頷く。
もはやこの時間軸で心を許せる者は互いしかいないのだから腹を括るしかない、と思った矢先。
《アンナ、私ね。復讐がしたいのよ》
私に罪を被せた全ての者たちへ。
夜明けの逆光線に射抜かれながら、そのために戻ってきたの、とルアンナが静かに微笑んだ。
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