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「うち、お金、アリマセン……スミマセン」
咄嗟に思ったままの言葉である。
それを聞いた見目愛らしい強盗は、まあっ、と上品に口元に手を当てた後にこう返すのだ。
《安心なさい、不自由していないもの》
鈴を転がすようなとは正に。
華奢で澄んだ笑い声の響きに、漸く頭がはっきりとしてきて。
この状況が更におかしいことに気付く。
何故なら眼前にいる少女は、薄く青白く発光し、宙に浮いているのだから。
しかも海外の貴族令嬢などが舞台の登場人物のような、裾が大きく広がった紺地の豪華なドレスと、いくつもの煌びやかな宝石を身につけているではないか。
(凄いコスプレ……や、そんなこと思ってる場合じゃないし)
何より自身の体は、首から下のみ金縛りのように動かない。
確かに強盗ではなさそうだ。
なので今度は、
「お願いしますから、取り憑かないで、呪わないでください……」
幽霊だと確信し、心の中で思いつく限りの出鱈目な念仏を唱えることにした。
どうにか穏便に成仏して欲しいのだ。
《あらあら、どうしようかしら……》
それを知ってか知らずか、幽霊は少し悪戯気な表情で頬に手を当てた。
勘弁してくれ、と恐怖心の中で思考を巡らせ、幽霊と言えば〝心残りがある〟これに尽きるだろうと、
「な、なにか……お困り、で?」
そんな風に伺えば、ぱっ、と花が咲いたように艶やかに微笑むのだ。
しかし花は花でも、綺麗な花には……という文言入りだと女は思う。
でもまあ、正解の台詞を手繰り寄せた。
これで苦痛や呪いの類いは免れたと一時の安堵も束の間、
《ひとまず起きて頂戴》
随分と大きな態度の幽霊が、指をパチンと鳴らせば途端に体が自由となる。
とにかく穏便に去っていただきたい。
仕方なく言われた通り、のそのそと上体を起こして見せた。
すると満足そうに、また命令慣れしていそうな口調で、
《そうね、ここにお座りなさい。ああ、楽にして構わないわ》
などと言うではないか。
「いや、ここ私の部屋、だし……」
小さく文句を呟くものの、そうかベッドが位置する場は上座だな、とぼんやり考え、指示された箇所に目を向けてみた。
そしてすぐに呆れたような声を上げ、〝ここ〟に指をさし訴える。
「あの、それ、テーブルなんですけど」
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