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話半分に。
「それじゃあ私がルナさんの魂と、一番の適合者だってことですか? それを信じろと?」
《そうよ、この私の魂とよ? あまりに光栄なことで慄いているのでしょうけれど》
「はあ……」
《家宝であるこの逆行魔術を施した指輪に血を一滴馴染ませ身につければ、命を落としたと同時に適合する魂の者の場所へ飛べる》
そして〝三日目の朝を迎えるまでに契約出来れば人生を歩み直せる〟と。
そんなファンタジーをテーブルの上に座る形で世間話のように言うではないか。
「逆行、いや、魔術って……」
杏奈はとりあえず再びインターネットで調べてみるが、前世占いだの、怪しい黒魔術のアクセサリー販売、携帯小説のタイトルばかりで実感が湧かない。
言葉の掛けようがなかった。
すると、
《私ね、婚約者に裏切られて婚約破棄された挙句、服毒刑に処されたの……》
ぽつり、と呟いたルアンナの言葉は、まさに今さっき見かけた小説のタイトルのようだった。
すかさず、
「あの、その……っ、いつの時代から来たんですか?」
つまり杏奈の中では「頭大丈夫?」という遠回しな窺いなのだ。
婚約破棄からの服毒刑など、この平和な世の中で何を言っているのだろうと。
しかし躊躇いもなくスラスラ返ってくるものだから、「え? マジなやつ?」と慌てて検索してみたが。
やはり欲しい情報は出てこない。
王国も、ルアンナという名も、処刑された事実も不確かな歴史という判断となる。
よって、
(なるほど。捏ねて捏ねて、パンが焼けるくらい手間ひまのかかった厨二病なんだわ)
途端、あからさまに冷やかしを含んだ笑みを浮かべた。
《何よその目、そんなに疑うならこの指輪にアンナの血を吸わせてご覧なさいな!》
「はっ。いやですよ、痛いですもん。よく指を刺して一滴ポタリだとか、ブツっと噛み千切るなんてお話に過ぎないんですよ?」
やれやれ付き合っていられない。
そんな呆れを微塵も隠そうとしないので、ルアンナは「わからず屋」だとか「いけず!」と、寝直そうと立ち上がった杏奈に纏わりついた。
「ちょっ、やめてよ危ないじゃん!」
《いやよ、アンナが信じるまで止めないわ!》
不貞腐れた表情はいつの間にか少し楽しそうにも見える。
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