夜明けのゼラニウム

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それを心底鬱陶しいと思い手で払うが、煙のようにすり抜けてしまうものだから飽き飽きする。 「もうっ、絶対に成仏させてやる! とりあえず茶碗いっぱいに塩盛りますからね!」 苛立ったまま、少女の幽霊に気を取られていると、床に投げたままの服に足を滑らせてしまった。 「あ、わっ!」 《……まあっ》 咄嗟に手が前に出て顔面強打は逃れたが、こんな夜更けに派手にすっ転んで。 下の階の人には、さぞ迷惑をかけただろうと申し訳なくなる。 同時に痛みは脈打つようにやってきて。 「いったあ……ああ、もうっ見てこれ!」 床の摩擦で擦りむいた手のひらに薄く滲む血を、「あんたのせいで」と訴えて見せるも、 《随分と間抜けな準備方法ね。でもやっと契約する気になったのじゃない》 「は?」 よしきた、とばかりに指輪にある石を杏奈の手のひらへ。 《ありがとう、アンナ》 瞬く間に重ねた手のひらから真っ赤な魔法陣がじわりと立ち上り、まるで自分の血が使われているような。 足からぞわぞわと不快感が湧き上がる。 「え、キモ……まっ、て!」 悲鳴を上げる間もなく魔法陣からの強い光で視界が完全に染められたのだった。
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