2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
確かに振り返れば大したことのない人生だったと自負している。
学生時代から夢見た憧れの都心で充実した生活。
友人に囲まれ好きなことを仕事にして、いずれはまだ見ぬ恋人と恋愛して結婚をして。
朝食はその日の体調や気分で作る、野菜や果物の新鮮なジュース、焼きたてのパン、ふわふわのオムレツとスープ。
可愛い食器やランチョンマット。
そんな幼少期にテレビドラマなどで見た優雅で幸せだろう時間。
ついでに同窓会なんかで「杏奈はいいよね」と言われるような。
そんな思えば陳腐な夢。
しかし現実はそれとは真逆で、都心に出てきたはいいが、恋人には捨てられ、仲良く遊ぶ友人などここには居らず。
そんな時、昔の友人たちの恋人や結婚出産の報告、中でも一番の親友は先月、母校で「好きなことを仕事に活かす」というテーマで講演をして欲しいと声がけされたと言う。
そんな素敵で充実した華やかな写真を見るたびに「あんたはいいよね」と度数の高い安酒を煽る毎日。
それをわざわざ地元にはない店の最新の服や化粧品を買い、撮った写真をSNSで上げることでしか自尊心を保てなかった虚しさに。
「私は私の決断に、間違ってはいない」
「私は幸せなんだ」と言い聞かせて……。
けれど時折どうしようもなく泣きじゃくった。
わかっている。自分は特別ではないし、大した人間ではないと認めてしまえれば、もっと楽に生きられるのに。
それでもベッドに入って目を瞑ると考えてしまうのだ。
〝こんな筈じゃなかった〟と。
過去の粗探しばかりしてしまう。
このまま小学生辺りからやり直せたら、どれだけ自分は他より優秀だと認められるのだろう。
そんな空想を、考えれば考えてしまうほど、世界に取りこぼされた気分で、劣等感に苛まれる毎日だった。
だが、どうだ。
そんな自分は死んだのだ。
仕事先や両親には申し訳ないと思っている。
もちろん姉たち、それからアパートの大家さんにも。
何故なら生活を奪われ、命を奪われたことなどへの怒りは――初めから薄かったのだから。
死が膝を打ち、手を擦りむいただけの痛みなら願ってもいない。
そんなもので新しい人生を手に歩み直せるのだ。
でも、だけど……。
《アンナ、ごめんなさい……?》
そしてルアンナはこれほどまでに感情を顕にする人間を見たことがなかった。
最初のコメントを投稿しよう!