彼のコンプレックス

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「そっか。でも、あなたが任務で傷ついて帰ってこなくて良かった」 「うん。今回分かったけど、騎士は向いているのかもしれない。団長にも言われたよ。筋が良いって」 「カイが? シンは筋が良いって言ったの?」 あのカイ・ハウザーが、シンを認めているらしい。それって結構すごいことで、私の彼って実はとても強いのかもしれない。 「もしかして、まだ団長に憧れてる?」 シンは面白くなさそうな声を上げた。私はびっくりして後ろに密着しているシンを見上げる。明らかにムスッとしている顔だ。 「憧れてたらどう思うの?」 「別に。好きじゃなく憧れだったら仕方ないとは思う」 「そう」 なんだか否定するのも惜しくなって、そのままにした。 しばらくの間無言だったから、どうしたのかしらと思ってまた振り向いてシンの顔を見上げる。 「……元が好きな人だっただけに複雑だよね」 私の視線を避けて横を向きながらボソリと呟いている。 気に入らないなら素直にそう言えば良いのに。私と違って真っ直ぐな人かと思えば、こういうところもあるのね。 「もう何とも思ってないわ」 「え?」 「カイのことは、もう何とも思わない。実は私、好きな人が出来たから」 いつもより素直になって、シンの顔を見る。私たちは、不安定な馬の背に揺れながら頬を寄せ合っていた。
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