彼のコンプレックス

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初めての恋人、初めての大好きな人、両想いになれて浮かれ切っている私とは対照的に、シンは付き合った途端冷静だ。 1分でも、1秒でも長くいたいと思っている私と違って、シンはこれまでと変わらなかった。いつもより堂々と手を繋いだり腕を組んだりするくらいで、それ以外は前と全く変わっていない。 まるで私だけが彼を好きみたいで、恋人同士ってこんな感じなんだろうかと寂しくなる。 私にとってシンはこれ以上ない位に素敵な恋人で、以前カイのことが好きだと思ったのは何だったんだろうって程、私はシンの全部が好きになっていた。 「無事に帰って来るか心配で待った45日間、私はずっとシンを失うかもしれないって思っていたのよ? ようやく無事に帰って来てくれたから、これが私の好きな人だって両親に紹介したいのはおかしい?」 私が真っ直ぐシンへの気持ちを伝えたら、喜ぶどころか困っていた。 「両親に紹介してもらって、その後を期待されても……応えられないよ」 「その後?」 「俺はもう、家族は諦めてる」 「どうして……」 そういえば、前にシンが言っていた。 私は貴族階級の事情しかよく知らない。 平民の間では自由恋愛が普通で、貴族階級は大体恋愛よりも結婚の方が先にある。だから好きな人云々の前に、結婚相手がいたりする。 「リリスには分からないと思うけど、うちは父親が精神の病気を患ってる。平民の中でも、暮らしは貧しくて問題が多い。それに俺は文字もろくに読めなくてリリスが言ったように情報弱者で間違いないんだ。学者のお父さんに認めてもらえるような人間じゃないよ」 はっきりと拒絶されたのが分かった。私は、付き合うイコール結婚って意識が強くて、それが下級ながらも貴族階級出身の認識だったのだと気付く。 シンにとって私は恋人ではあるけれど、婚約者にはなり得ないってこと。 私たちの前に立ちはだかるこの差は、想像以上に大きかったのだ。
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